三方よしカレンダー

2026年3月15日日曜日

第9回メディカルビレッジ学会・三方よし研究会市民公開講座のご報告

 第9回メディカルビレッジ学会・三方よし研究会市民公開講座が開催されました。
多くの皆さまにご参加いただき、がんと共に生きること、支え合うこと、そして地域の中で安心して暮らし続けることについて、さまざまな立場から学び合う貴重な時間となりました。


 開会にあたり、NPO法人三方よし研究会 副理事長の大石和美さんより挨拶がありました。大石さんは、「一人の人間を癒すには、一つの村が必要である」というメディカルビレッジの考え方に触れながら、患者さんだけでなく、ご家族やご友人、医療や介護に関わる人たちも含めて共に暮らしを支え合う“癒しの村”を地域の中につくっていくことの大切さを紹介されました。また、人生の途中で立ち止まるような出来事に出会ったとき、人の言葉がその後の人生を支える道しるべになることにも触れ、この日の講演が参加者一人ひとりにとって「言葉の処方箋」となることへの願いが語られました。


 


 司会は三方よし研究会実行委員の小原日出美さんが務められ、基調講演、情報提供、特別講演Ⅰ・Ⅱへと続くプログラムが案内されました。 

基調講演では、順天堂大学名誉教授の野興夫先生が「人生の目を開く ことばの処方箋」をテーマにお話しくださいました。日野先生は、ご自身の故郷での原体験や、がん哲学外来の実践を通して、「病気であっても病人ではない」という視点を大切にしながら、病気そのものだけでなく、その人の人生や思いに寄り添うことの大切さを語られました。また、「支える」と「寄り添う」は少し違うこと、困っている人と一緒に困ってくれる人の存在が、その人の悩みをやわらげること、さらに、希望を持って生きる人を誰が病人と呼ぶのか、という印象深いメッセージも届けてくださいました。がん哲学とは、生物学としての“がん”と、人間学としての“哲学”を重ね合わせ、人が病と共にどう生きるかを考える営みであることも、わかりやすくお話しくださいました。


 続いて、東近江市永源寺診療所所長の花戸貴司先生より、「がん患者の現状」について情報提供がありました。花戸先生は、ご自身のお父さまをがんで亡くされた経験にも触れながら、今は医療の進歩によってがんと共に長く生きる時代になった一方で、その分、患者さんやご家族が悩み続ける時間も長くなっていることを丁寧に語られました。診断、治療、慢性期、再発、終末期という“がんの旅路”の中で、患者さんは何度も意思決定を迫られ、不安、孤独、迷い、ざわざわした気持ちを抱えながら過ごしていること、そして病院では答えきれない悩みが数多くあることを紹介されました。そのうえで、医療だけでは解決できない苦しみがあり、専門職だけでなく、友人や仲間、地域の人たちが話を聴くこと、地域全体が支え合うチームになることが大切であると伝えてくださいました。さらに、科学や技術だけでなく、「おいしい」「うれしい」「楽しい」といった本人の内側にある価値を大事にする“アート”の視点も必要だとお話しくださり、とても心に残る発表となりました。 


特別講演Ⅰでは、滋賀県がん患者団体連絡協議会会長の菊井津多子さんが、「一緒に考えよう ~がん患者に安心をもたらしてくれる ヒト・モノ・コト~」をテーマに、ご自身の体験と患者支援活動をもとにお話しくださいました。菊井さんは、37歳で乳がんと診断され、手術、抗がん剤、ホルモン治療、放射線治療を受けられたこと、さらに再発を経験されたことを率直に語られました。その中で、子どもたちの成長を見たいという思いが生きる力になったこと、患者会との出会いが大きな支えになったこと、同じ体験を持つ仲間と出会えたことで「ほっとした」ことなどを話してくださいました。さらに、滋賀県がん患者団体連絡協議会の活動として、ピアサポーター養成、患者サロンの運営、がん患者アンケートの実施などを紹介され、患者さんやご家族が求めているのは、医療者との信頼関係、必要な情報にたどり着けること、思いを分かち合える居場所、そして安心して相談できるつながりであることを伝えてくださいました。講演の最後には、がん患者に安心をもたらす“ヒト・モノ・コト”が、それぞれバラバラではなく、つながっていることが何より大切であり、そうしたメディカルビレッジの考え方が東近江から滋賀県全体、さらに全国へと広がっていってほしいという願いが語られました。


特別講演Ⅱでは、写真家の國森康弘さんが、「写真が語る命のバトンリレー ~悲しくも温かな死の先に~」をテーマにご講演くださいました。國森さんは、写真家としてご縁のあった方々の人生や家族の時間、看取りの現場を写真とともに紹介されました。がんに限らず、さまざまな境遇にある人々の姿を通して、命が誰かから誰かへと受け継がれていくこと、支え合う人たちの存在が暮らしを支えていることを伝えてくださいました。たとえば、在宅での暮らしを支えるために、看護師、薬剤師、ヘルパー、ケアマネジャー、リハビリ職、福祉用具の専門職、家族らが集まり、一人の暮らしと家族の暮らしをどう支えるかを一緒に考えた場面も紹介され、多職種や家族がつながることの力強さを感じさせてくださいました。講演の終盤では、おばあちゃんとの思い出や「ありがとうおばあちゃん」という言葉とともに、先人たちがつないできた命のバトンリレーへの感謝が語られ、会場全体があたたかな余韻に包まれました。  


閉会にあたり、三方よし研究会 副理事長の楠神渉さんより挨拶がありました。楠神さんは、先生のお話から「病気であっても病人ではない」という大切な視点を受け取り、病気を抱えながらもその人らしく地域で生きていけるあり方こそ、メディカルビレッジの目指す地域の姿ではないかと述べられました。また、花戸先生からはがん患者さんの意思決定の連続や在宅医療の視点、菊井さんからはがん患者さんの思いや支援のあり方、緩和ケアの課題、そして國森さんからは写真を通して見える命のつながりや看取りのあたたかさを学ばせていただいたことに触れながら、登壇者への感謝を伝えられました。最後に、参加者に向けても深い感謝が述べられ、市民公開講座はあたたかな拍手の中で締めくくられました。


 全体を通して、がんという病気を医学的に知るだけでなく、その人らしく生きること、支えられること、支え合うこと、そして地域の中に安心できる居場所やつながりを育んでいくことの大切さを、あらためて考える時間となりました。今回の学びを、東近江の地域づくりにも生かしていきたいと感じています。