三方よしカレンダー

2026年4月12日日曜日

第222回 NPO三方よし研究会のご案内

 NPO三方よし研究会 実行委員会

実行委員会にて4月から6月までの企画内容や総会について確認を行いました。

今月の三方よし研究会は、近江温泉さんの当番にて開催します。

「お食い締め」を通した食支援、多職種で食支援を行う際に必要な視点や関わりについて学ぶ、また、地域における食支援について、多職種がどのように連携して取り組んでいくべきかを考え、共有することをゴールとしています。

第222回 NPO三方よし研究会

日時:2026年4月16日(木)18:30~20:30

ご参加を希望される方は、下記リンクよりお申し込みください。

https://forms.gle/XQFBHuYJ59neWAAf7






2026年3月22日日曜日

第221回三方よし研究会のご報告

 第221回三方よし研究会が開催されましたので、ここに報告します。

1. 開催概要


第221回三方よし研究会は、びわこリハビリテーション専門職大学さんの当番で、小串輝男氏の全体進行のもと、在宅リハビリテーションの課題と展望について深い議論が交わされました。

2. 情報提供:地域共生ケア全国ネットワーク研究フォーラム


会議の冒頭、楠神より「地域共生ケア全国ネットワーク研究フォーラム」の開催案内が行われました。このフォーラムは2026年度、広島県福山市の鞆の浦において「地域住民と共に歩む共生社会」をテーマに開催が予定されており、少子高齢化社会における相互扶助の在り方を模索する貴重な機会となります。開催日は4月18日で、現地参加のほかオンライン視聴も可能であり、それぞれの地域で実践可能な共生ケアについて知見を広めることが目的とされています。また、前日の4月17日にはオプション企画として鞆の浦の魅力を体感できる「街歩き」も計画されており、こちらもオンラインでの疑似体験が可能である旨が紹介され、積極的な参加が呼びかけられました。

3. 開会挨拶:三方よし研究会の歩みと現状
びわこリハビリテーション専門職大学 学長 角野文彦氏


挨拶では、本研究会の成り立ちから現在に至る軌跡が語られました。当初、保健所において地域の関係者が脳卒中パスを作成することから始まった活動は、現在は小串輝男氏や花戸大介氏らの尽力により、NPO法人として確固たる社会実装の形態を成し、全国からも注目される存在へと発展を遂げました。角野文彦氏は、行政から教育の世界に身を転じて2年が経過し、同時に在宅医療介護連携推進事業の座長を2年前から務めているという自身の背景を共有され、その中で永源寺の花戸大介氏による事例報告が全国的な好事例として高く評価されていることに触れました。滋賀県唯一のセラピスト養成校としての役割を果たす一方で、少子化による学生確保の難しさという経営的課題にも言及しつつ、在宅における生活の質を維持するためにはリハビリテーション職の介在が不可欠であることを、行政と教育の両面を知る立場から強調されました。


4. 取組紹介:滋賀県および本学における言語聴覚士の地域活動
言語聴覚療法学科長 種村純氏

滋賀県内および大学における言語聴覚士(ST)の活動状況が報告されました。同学科の学生の約9割が滋賀県出身者で占められており、地域に根差した人材育成が進んでいますが、滋賀県言語聴覚士会自体の会員数は100名程度の小規模な組織に留まっています。そのため、理学療法士会や作業療法士会との多職種連携や、大学との強固な協力体制が不可欠であるという現状が示されました。具体的な活動として、リハ職派遣事業や「失語症者向け意思疎通支援者養成事業」を通じた外出支援、さらには県内各地で開かれている失語症カフェの運営支援が挙げられました。また、東近江市での「まちリハ事業」や、アルプラザ八日市での「みんなの広場」、二五八まつり等の地域イベントにおいては、教員と学生が一体となって「知の健康づくり」を推進し、認知機能の測定とトレーニング、口腔・嚥下機能評価機器「健口くん」を用いた健康増進活動を積極的に展開している実績が紹介されました。


5. 学習会:COPDは予防できる地域課題である
リハビリテーション学部長 千住秀明氏


学習会では、COPD(慢性閉塞性肺疾患)を「予防可能な地域課題」として捉える重要性が説かれました。COPDは長年の喫煙習慣が原因で発症する「タバコ病」であり、進行すると呼気が延長し、息を吐き出しにくくなるメカニズムを持っています。東近江市においては男性の死亡率が全国平均より高く、喫緊の課題となっていますが、呼吸リハビリテーションは従来の診療報酬体系において評価が遅れ、医療機関にとっては取り組むほど赤字になりやすいという社会的背景が、普及を妨げる一因となってきました。
千住秀明氏は、長崎県や東京都での検診モデルに基づき、肺年齢測定やスパイロメトリーによる早期発見の重要性を強調しました。特に「吸入療法」において、製薬会社のデバイス特許の関係で操作方法がメーカーごとに異なり、高齢の患者が混乱を来している現状を指摘し、20分という時間をかけて丁寧に指導できる理学療法士が介入する意義は大きいと述べました。80代女性の症例では、5年間の寝たきり状態から適切な呼吸法と運動療法により200メートルの歩行が可能になった姿が示されました。禁煙、薬物療法、呼吸リハを統合した**「東近江市モデル」の構築は、医療・介護・行政の連携によって救える患者を増やし、まさに「三方よし」を実現する鍵となる**と提言されました。

6. グループ発表:在宅リハビリテーションの課題と継続の方法
グループワークでは、花戸貴司氏の進行により、在宅におけるリハビリテーションをいかに継続させるかについて活発な議論が展開されました。


第1グループ


 入院中の密なリハビリと在宅での頻度の差が大きな課題であると報告。家族の意思だけでは継続が難しいため、ヘルパーなどの訪問スタッフが入れ替わり立ち替わり声掛けを行い、モチベーションを高める工夫が必要であるとの意見が出されました。また、特別な訓練としてだけでなく、掃除や調理といった具体的な生活動作そのものをリハビリとして捉え、日常の中に落とし込む考え方が有効であるとまとめられました。


第2グループ


本人と家族の間でリハビリの目標がズレていることや、老老介護の世帯にとってリハビリ計画書の理解が難しいといった課題を挙げました。また、ケアマネジャーがリハビリの「卒業」を目指しても、その後のバトンタッチが難しく機能が低下してしまう懸念についても議論されました。継続のための対策として、「競馬に行きたい」「来年の桜を見たい」といった本人の具体的な楽しみや居場所づくりに直結する目標設定を行うことが、意欲を引き出す鍵になると報告されました。


会場班


金銭面や制度上の制限から毎日専門職が訪問することは困難であるという現実的な問題を指摘しました。そのため、訪問時以外に家族がいかに適切に介助し、本人がどう動くかという具体的なイメージを共有し、環境を整える指導が不可欠であると結論付けました。さらに、在宅リハビリが必要になる前の段階での、行政や地域による継続的な啓蒙活動の重要性についても強調されました。


7. 指定発言:行政および現場の視点


指定発言では、まず東近江市保健センターの理学療法士である中嶋氏が登壇し、行政の立場から、重症化する前の段階での啓発活動の重要性を述べられました。出前講座などを通じて、市民一人ひとりが「どう生きたいか」を自問自答し、予防意識を高めるための伴走支援を継続していく姿勢が示されました。


続いて、ワンモア訪問看護リハビリセンターの理学療法士である山本氏は、診断名がついていなくとも潜在的に呼吸不全を抱える高齢者が多い現状を指摘しました。専門職による週数回の介入に留まらず、朝起きた際や食事の前後など、生活の流れの中に呼吸法や活動の工夫をいかに自然に落とし込むかという視点が、在宅におけるリハビリの質を決定づけると提言されました。


8. コメント、閉会
最後に、角野文彦氏よりコメントをいただきました。


角野文彦氏は、病院のリハビリテーション室では熱心に動く患者が、病室に戻ると終日寝たきりになっている現状を鑑みて、「生活そのものがリハビリテーションである」という視点への立ち返りを求めました。在宅生活においては、機能回復そのものを目的とするのではなく、本人の意欲を喚起する「個別の目標設定」に特化し、多職種がバトンを繋ぎながら生活を支える姿勢こそが重要であると結びました。



9.次回のご案内
次回の第222回研究会は、令和8年4月16日に近江温泉病院が当番校を務め、「お食い締め」をメインテーマに開催されます。パーキンソン病患者の看取りまでの5年間の経過報告や、地域における食支援の在り方、多職種連携による食の支援体制について検討する予定であることが案内され、盛会のうちに閉会しました。


2026年3月15日日曜日

第9回メディカルビレッジ学会・三方よし研究会市民公開講座のご報告

 第9回メディカルビレッジ学会・三方よし研究会市民公開講座が開催されました。
多くの皆さまにご参加いただき、がんと共に生きること、支え合うこと、そして地域の中で安心して暮らし続けることについて、さまざまな立場から学び合う貴重な時間となりました。


 開会にあたり、NPO法人三方よし研究会 副理事長の大石和美さんより挨拶がありました。大石さんは、「一人の人間を癒すには、一つの村が必要である」というメディカルビレッジの考え方に触れながら、患者さんだけでなく、ご家族やご友人、医療や介護に関わる人たちも含めて共に暮らしを支え合う“癒しの村”を地域の中につくっていくことの大切さを紹介されました。また、人生の途中で立ち止まるような出来事に出会ったとき、人の言葉がその後の人生を支える道しるべになることにも触れ、この日の講演が参加者一人ひとりにとって「言葉の処方箋」となることへの願いが語られました。


 


 司会は三方よし研究会実行委員の小原日出美さんが務められ、基調講演、情報提供、特別講演Ⅰ・Ⅱへと続くプログラムが案内されました。 

基調講演では、順天堂大学名誉教授の野興夫先生が「人生の目を開く ことばの処方箋」をテーマにお話しくださいました。日野先生は、ご自身の故郷での原体験や、がん哲学外来の実践を通して、「病気であっても病人ではない」という視点を大切にしながら、病気そのものだけでなく、その人の人生や思いに寄り添うことの大切さを語られました。また、「支える」と「寄り添う」は少し違うこと、困っている人と一緒に困ってくれる人の存在が、その人の悩みをやわらげること、さらに、希望を持って生きる人を誰が病人と呼ぶのか、という印象深いメッセージも届けてくださいました。がん哲学とは、生物学としての“がん”と、人間学としての“哲学”を重ね合わせ、人が病と共にどう生きるかを考える営みであることも、わかりやすくお話しくださいました。


 続いて、東近江市永源寺診療所所長の花戸貴司先生より、「がん患者の現状」について情報提供がありました。花戸先生は、ご自身のお父さまをがんで亡くされた経験にも触れながら、今は医療の進歩によってがんと共に長く生きる時代になった一方で、その分、患者さんやご家族が悩み続ける時間も長くなっていることを丁寧に語られました。診断、治療、慢性期、再発、終末期という“がんの旅路”の中で、患者さんは何度も意思決定を迫られ、不安、孤独、迷い、ざわざわした気持ちを抱えながら過ごしていること、そして病院では答えきれない悩みが数多くあることを紹介されました。そのうえで、医療だけでは解決できない苦しみがあり、専門職だけでなく、友人や仲間、地域の人たちが話を聴くこと、地域全体が支え合うチームになることが大切であると伝えてくださいました。さらに、科学や技術だけでなく、「おいしい」「うれしい」「楽しい」といった本人の内側にある価値を大事にする“アート”の視点も必要だとお話しくださり、とても心に残る発表となりました。 


特別講演Ⅰでは、滋賀県がん患者団体連絡協議会会長の菊井津多子さんが、「一緒に考えよう ~がん患者に安心をもたらしてくれる ヒト・モノ・コト~」をテーマに、ご自身の体験と患者支援活動をもとにお話しくださいました。菊井さんは、37歳で乳がんと診断され、手術、抗がん剤、ホルモン治療、放射線治療を受けられたこと、さらに再発を経験されたことを率直に語られました。その中で、子どもたちの成長を見たいという思いが生きる力になったこと、患者会との出会いが大きな支えになったこと、同じ体験を持つ仲間と出会えたことで「ほっとした」ことなどを話してくださいました。さらに、滋賀県がん患者団体連絡協議会の活動として、ピアサポーター養成、患者サロンの運営、がん患者アンケートの実施などを紹介され、患者さんやご家族が求めているのは、医療者との信頼関係、必要な情報にたどり着けること、思いを分かち合える居場所、そして安心して相談できるつながりであることを伝えてくださいました。講演の最後には、がん患者に安心をもたらす“ヒト・モノ・コト”が、それぞれバラバラではなく、つながっていることが何より大切であり、そうしたメディカルビレッジの考え方が東近江から滋賀県全体、さらに全国へと広がっていってほしいという願いが語られました。


特別講演Ⅱでは、写真家の國森康弘さんが、「写真が語る命のバトンリレー ~悲しくも温かな死の先に~」をテーマにご講演くださいました。國森さんは、写真家としてご縁のあった方々の人生や家族の時間、看取りの現場を写真とともに紹介されました。がんに限らず、さまざまな境遇にある人々の姿を通して、命が誰かから誰かへと受け継がれていくこと、支え合う人たちの存在が暮らしを支えていることを伝えてくださいました。たとえば、在宅での暮らしを支えるために、看護師、薬剤師、ヘルパー、ケアマネジャー、リハビリ職、福祉用具の専門職、家族らが集まり、一人の暮らしと家族の暮らしをどう支えるかを一緒に考えた場面も紹介され、多職種や家族がつながることの力強さを感じさせてくださいました。講演の終盤では、おばあちゃんとの思い出や「ありがとうおばあちゃん」という言葉とともに、先人たちがつないできた命のバトンリレーへの感謝が語られ、会場全体があたたかな余韻に包まれました。  


閉会にあたり、三方よし研究会 副理事長の楠神渉さんより挨拶がありました。楠神さんは、先生のお話から「病気であっても病人ではない」という大切な視点を受け取り、病気を抱えながらもその人らしく地域で生きていけるあり方こそ、メディカルビレッジの目指す地域の姿ではないかと述べられました。また、花戸先生からはがん患者さんの意思決定の連続や在宅医療の視点、菊井さんからはがん患者さんの思いや支援のあり方、緩和ケアの課題、そして國森さんからは写真を通して見える命のつながりや看取りのあたたかさを学ばせていただいたことに触れながら、登壇者への感謝を伝えられました。最後に、参加者に向けても深い感謝が述べられ、市民公開講座はあたたかな拍手の中で締めくくられました。


 全体を通して、がんという病気を医学的に知るだけでなく、その人らしく生きること、支えられること、支え合うこと、そして地域の中に安心できる居場所やつながりを育んでいくことの大切さを、あらためて考える時間となりました。今回の学びを、東近江の地域づくりにも生かしていきたいと感じています。 

2026年1月15日木曜日

第218回 三方よし研究会開催のご報告

本日、第218回の三方よし研究会が開催されましたので、ここにご報告いたします。




◇日時;令和8年1月15日(木) 18:3020:30

◇会場:ZOOM活用によるWEBでの開催

◇当番:NHO東近江総合医療センター

 

テーマ「多職種連携による退院支援について」

【ゴ-ル】

○退院支援における多職種連携あり方について考える

○顔の見える関係を構築するために必要なことを考える



【情報提供】

●健口いきいき広場2026「介護の力で食べる喜びを~美味しい料理で元気に長生き~」のご案内

日時:R8.2.11(水・祝)13:3015:30 場所:アピアホール

内容:ケアプランセンター加楽の川上さんや、魚繁大王殿の岩崎さんを迎え、介護の力や嚥下食をテーマに開催されます。



●第9回 日本medical village学会・三方よし研究会市民公開講座のご案内

日時:R8.3.15(日)13:0016:00 場所:能登川コミュニティセンター

内容:順天堂大学名誉教授、一般社団法人がん哲学外来名誉理事長でMedical Village学会理事長であり新渡戸稲造記念センター長の樋野興夫先生先生、滋賀県がん患者団体連絡協議会の菊井津多子さん、写真家國松康弘さんによる講演が予定されています



●八幡蒲生×東近江在宅緩和ケアネットワークのお知らせ

日時:R8.2.14(土)14:3016:30 場所:湖東信用金庫近江八幡支店

内容:地域の多職種が普段の活動や悩みを共有し、互いの役割を理解し合い、実際に頼り合える関係作りの第一歩として企画しています。ご参加お待ちしております。



進行:大岡 俊亮さん(東近江総合医療センター)

 

【挨拶】

東近江総合医療センター 院長 野﨑 和彦さんより

滋賀県の保健医療計画において口腔ケアが強く意識されている。噛む力が強いほど死亡率が低いというデータや、子供の歯並びトレーニングの重要性が指摘されている。今後の在宅医療において、疾患中心の病院から「生活を見る在宅」へのシフトが必要であり、そのためには多職種の連携が極めて重要です



20分学習会】

「口腔ケアの現状と課題」

東近江総合医療センター 歯科口腔外科医長 堤 泰彦さん


• 口腔ケアの背景と重要性…日本は世界に類を見ないスピードで高齢化が進んでおり、医療や介護を必要とする高齢者の増加に伴い、口腔ケアの需要も高まっています。口腔ケアは単に口の中を綺麗にするだけでなく、全身の健康維持やADL(日常生活動作)の維持、免疫力の向上において極めて重要な役割を担っています。

• オーラルフレイルと生存率への影響…「オーラルフレイル(口腔機能の低下)」は、要介護リスクや総死亡率を約2倍に高めることが研究で示されています。しかし、フレイルの状態は4段階に分けられ、初期の段階(レベル3まで)であれば、適切な介入によって元の健康な状態に戻すことが可能です。また、歯の数が20本以上残っている人は生存率が高いというデータもあり、「8020運動」の重要性が裏付けられています。

• 誤嚥性肺炎の予防効果…高齢者や免疫力が低下した患者にとって、口腔内の細菌は誤嚥性肺炎の大きな原因となります。適切な口腔ケアを行い、唾液の分泌を促進して自浄作用を高めることで、誤嚥性肺炎の発症率を約半分にまで下げることが期待できます。特に、震災などの非常時には生活環境の悪化から口腔ケアが疎かになり、肺炎が増加する傾向があるため注意が必要です。

• 術後管理や栄養摂取におけるメリット…手術前後に口腔ケアを行うことで、術後の感染症予防や入院期間の短縮につながるというデータがあります。また、口腔ケアによって唾液が増えると、食べ物をまとめやすくなり(食塊形成)、嚥下反射が誘発されやすくなるため、経口摂取の維持や食事時間の短縮にも寄与します。

• 医療現場における具体的なリスク…経管栄養(濃厚流動食)を使用している患者は、糖分を含む食渣が口腔内に残りやすく、「ボトルカリエス」のような急激な虫歯の進行を招くリスクがあります。これが進行すると、免疫力が弱い患者の場合、敗血症などの重篤な全身疾患を引き起こす可能性もあります。また、入れ歯の咀嚼効率は天然歯の約3割程度にとどまるため、適切な維持管理が不可欠です。

• 病院における現状の課題とマンパワー不足…病院内では入院時のスクリーニングを行っていますが、マンパワーの制約から、歯科専門職が全患者に介入することは現実的に困難です。また、退院支援のカンファレンスに歯科が十分に介入できておらず、地域との連携が不十分である点も大きな課題です。口腔ケアの優先順位が他職種の間で低く見積もられがちな現状もあります。

• 解決策としての「OHAT」の活用と優先順位付け…限られた資源を有効活用するため、直感的に口腔状態を点数化できる評価指標「OHATOral Health Assessment Tool)」の導入を提案しています。これにより、12分という短時間で客観的な評価が可能となり、重症度の高い患者を優先的にピックアップして歯科が重点介入する体制が構築できます。

• 多職種連携と地域への継続的な支援…今後の展望として、歯科専門職だけでなく、看護師や介護職が共通の評価マニュアルを用いて基本的なケアを行い、専門的な介入が必要な場合に歯科に繋ぐという役割分担が重要です。また、退院時サマリーに口腔情報を記載することで、地域全体で「切れ目のない口腔ケア」を提供し、生活を支える体制づくりを目指しています。





【活動報告】

『多職種連携による退院支援について』

①「薬剤師が行う退院支援の取り組みと課題」病棟業務管理主任(薬剤師) 大住 悠介さん


薬剤管理の最適化: 医師と連携した処方設計に加え、看護師等と協力して患者の嚥下機能やライフスタイルに合わせた剤形への変更・調整を行っています。

地域薬局との連携: 入院前からかかりつけ薬局と情報を共有し、退院時には副作用や管理状況をまとめた「退院時薬剤管理サマリー」を地域薬局へ送付して、継続的な支援を推進しています。

運用の課題: 薬局からの返信率が約35%と低く、患者の来局に合わせたより早期の情報提供(サマリー発行)が求められています。

多職種間の情報共有: 薬剤師と薬局間で共有された情報が、ケアマネジャーやソーシャルワーカーなどの他職種に届いていない点が課題です。



②「リハビリテーション科が担う退院支援の実践と課題~急性期から在宅までの切れ目ない支援~」理学療法士長 中川 正之さん


・リハビリテーション科では、急性期から在宅まで切れ目のない支援を目指し、入院早期から身体・認知機能の評価に基づいた退院計画を策定しています。

・具体的には、多職種と連携してADL等の情報を共有し、住宅改修や福祉用具の導入を検討することで、患者が安全に生活できる環境を整えます。これにより、退院後の窒息や転倒事故を未然に防ぎ、再入院リスクの低減やQOL向上に繋げます。

・課題は、人員不足や実施単位数が重視される診療報酬制度の影響により、カンファレンス参加などの連携業務に時間を割きにくい点です。また、地域におけるリハビリ資源の格差や、情報共有の仕組みが統一されていない点も解決すべき課題として挙げられます。



③「多職種連携を進める取り組み」地域医療連携室看護師長 吉田 麻未さんより


・背景と必要性: 高齢化や経済的困窮など背景が複雑化したケースが増加しており、限られた
労働力でこれに対応するには、専門性を活かした効率的な職種間連携が不可欠です。

• 現状の課題: チーム医療は浸透しているものの、職種間連携はまだ限定的です。連携のメリットが不明、または自業務で手一杯という課題に対し、小人数から意識を共有する「スモールスタート」でのルール化を検討しています。

• 具体的な改善策:

○看護要約の充実: 在宅側が求める情報を再学習し、退院後の異常早期発見や適切なケアに繋がる情報提供を目指します。

○外来連携の強化: 外来治療患者の問い合わせに対するルールを明確化し、対応のばらつきによる混乱を防ぎます。

• 目指す関係性: 単に顔がわかる段階を超え、互いの専門性を尊重し「信頼して任せられる関係」を構築することで、地域全体で切れ目のない支援を提供します。



【グループワーク】

○病院と在宅とのギャップをどういったところに感じますか。また、ギャップを埋めるために必要なことはありますか。

○多職種間で顔の見える関係性を構築していくにはどのようなことが必要ですか。


 

【発表】

<1グループ>

病院内の情報が在宅側に降りてこず、在宅側が病院内の状況を把握できないことが課題として挙げられた。

•またカンファレンスに栄養士などが参加できない場合もあり、限られた時間でケア、栄養、生活、食事といった多岐にわたる情報を全て共有し繋げることの難しさが指摘された。

急性期病院の多忙さもあり連絡が取りづらい現状があるが、普段から顔を知り、「あの人に相談してみよう」と思える関係を築くことが最も重要。このような研究会を継続し、顔を出して知り合い、困った時に助けを求められる関係を作っていくべきとの結論に至った。


<2グループ>

入院診療と訪問診療では求められる役割が異なるため、ギャップがあるのは当然であり、それを埋めるために密な情報共有が必要。

今後はオンラインメッセージ、チャット、個人カルテなどを活用したネットワークによる多職種間での「見える化」が必要になるとの意見が出た。

ケアマネジャーが往診に同行し医師と直接話す機会を増やすなど、他職種と積極的にコンタクトを取り、相談しやすい関係性を築くことが重要。


<3グループ>

病院でのADL能力と、実際の在宅での生活動作には情報に違いやギャップが生じやすい現状がある。

病気の予後や経過について、本人や家族がどこまで理解できているかという点に病院と在宅の差を感じるとの意見があった。

退院後に嚥下(飲み込み)のリハビリが必要な場合でも、外来で嚥下に対応しているクリニックが非常に少ないという地域性の課題も挙げられた。

サマリー等による情報共有だけでなく、退院後の情報を病院側へフィードバックすることで、入院期間中のギャップを埋めていく必要がある。


<会場グループ>

相互理解の深化: 在宅と入院それぞれの「力(強み)」を互いに深く理解しなければギャップは埋まらないため、「スモール・トゥ・ビッグ・ピクチャー」の視点で進めるべきとの意見が出た。

がん患者を中心としたACP(人生会議)や看取りに関しても、多職種連携を深める必要がある。

退院後の患者の健康を守るためには、医師やリハビリ職だけでなく、歯科医師を含む多様な職種の連携が不可欠。



【指定発言】
●近江温泉病院 総合リハビリテーションセンター部長 石黒 望さん


【作業療法士の視点と連携の重要性】
 作業療法士は、病気や障害によってできなくなった「やりたい作業」や「期待されている役割」を取り戻す手助けをしています。この使命を果たすためには連携が不可欠であり、その重要性を強く感じています。

【病院と在宅のギャップの正体】

• 時間軸と視点の違い: 病院は「退院」という限られた期間内のサービスが主体ですが、在宅はその後も続く「生活の安定」や「QOL(生活の質)」を重視します。この視点の違いがギャップを生みます。

• 情報の質の偏り: 病院は医学的情報が豊富ですが生活や家族の情報が不足しがちです。逆に在宅は生活情報が豊富ですが医学的情報は断片的になりやすいという特徴があります。

• 役割理解の不足: お互いの役割や専門性を十分に理解できていないことも、支援のスタート地点を遅らせる要因となります。

【ギャップを埋めるための対策】

• ハブ機能の強化: 早期から入院プロセスに介入し、必要な情報を各所に繋ぐ「ハブ(拠点)」的な機能を持つ部門(退院支援を担う専門職)が病院側に不可欠です。

• 「思い」の受け渡し: 単なる事務的な調整ではなく、病院側が大事に思っていること、お願いしたいこと、あるいは入院中に課題として残ったことなどを「思い」と共に共有し、生活へ繋げていくマネジメントが重要です。

【信頼関係の構築】

• 個人の関係性: 組織名でのやり取りだけでなく、「〇〇さん」という個人としての関係を築くことで連携の幅が広がります。

• 思考過程の共有: 成功事例だけでなく失敗事例も共有し、他職種がどのような思考過程を経て判断したのかを学び合うことが、連携を深める近道です。


 

●東近江健康福祉事務所 奥井 菜穂さん


【入退院調整の手引きの改訂】
 保健所では平成27年から「入退院調整の手引き」を作成しており、現在は令和67年度にかけて第4版への改訂がなされました。これまでの取り組みで連携はスムーズになりつつありますが、各職種の視点や取り組みが退院後の生活にうまく引き継がれていないという課題が見えてきていました。

【第4版改訂の重点ポイント】

 以下2点に特に力を入れています。

• リハビリテーション: 入院中のリハビリ職とケアマネジャーが早い段階から情報連携を行い、退院後の生活イメージを共有することで、在宅のケアプランに反映させる視点を強化しました。

• 口腔機能管理: 入院中に新しく導入された口腔ケアの方法やグッズの情報は、在宅へ伝わる際に抜け落ちやすいため、これらを確実に引き継ぎ、在宅での管理を継続できるようにしました。

【連携の枠組みの拡大】

 今回の改訂では、これまでの「病院とケアマネジャー」という点での連携から、ケアマネジャーを含む「在宅療養支援者全体」と病院との連携へと枠組みを広げたことが大きなポイントです。今後も病院、訪問看護、ケアマネジャーなどが連携の流れを共有できる機会を継続していきたいと考えています。

 

 

 

【連絡事項】

・第219回 三方よし研究会 令和8219日(木)18:3020:30

○当番 湖東歯科医師会

2025年12月20日土曜日

市民公開講座 心の糸~写真記者の僕が認知症を見つめ続けて気づいた光~のご報告

 このたび、三方よし研究会 市民公開講座を開催しましたので、概要をご報告いたします。

日時 :令和7年12月13日(土)14時~16時30分
場所:東近江市五個荘コミュニティセンター

〇挨拶:三方よし研究会 理事長 小串輝男医師
本日はお忙しい中、三方よし研究会 市民公開講座にご参加いただき、ありがとうございます。
本日の講座は「認知症」をテーマに開催しました。五箇荘地区では先日、この会場で認知症の早期発見訓練が行われましたが、私たちの取り組みは、単に認知症を見つけることを目的としたものではありません。認知症のある方お一人おひとりに寄り添い、その人の状況や思いを理解しようとすることを切にしています。
認知症は、誰にとっても身近で、決して他人事ではありません。地域の中でどう受け止め、ともに生きていくかを考えることが重要だと考えています。
本日は、写真記者として長年認知症の現場を見つめてこられた 松村和彦先生 をお迎えし、「心の糸」をテーマにご講演いただきます。認知症を新たな視点で捉え直す機会になることを期待しています。
本日はどうぞ最後まで、ゆっくりとお話をお聴きください。

司会:小原日出美 氏

本日の市民公開講座は、新聞記者として長年、認知症をテーマに取材・発信を続けてこられた講師をお招きし、認知症について「知る」だけでなく、「感じ、考える」機会として開催いたしました。
認知症は、誰にとっても決して他人事ではありません。本日のお話が、皆さま一人ひとりの心に残る時間となりましたら幸いです。
それではまず、オープニングとして、永源寺診療所 所長であり、三方よし研究会 実行委員長でもいらっしゃいます 花戸貴司先生 に、「認知症とともに生きる」をテーマにお話しいただきます。
花戸先生、どうぞよろしくお願いいたします。

〇オープニングアクト:花戸貴司先生(永源寺診療所所長、三方よし研究会実行委員長)



オープニングアウトでは、花戸貴司先生より、「認知症とともに生きる」をテーマにお話しいただきました。

 花戸先生はまず、日本社会が大きく変化してきた背景に触れられました。かつて日本人の平均寿命が50歳前後だった時代には、医療の役割は「病院で治すこと」が中心でした。しかし現在は平均寿命が80歳を超え、多くの人が高血圧や糖尿病、がん、認知症など複数の病気を抱えながら地域で暮らす時代になっています。
その中で、「医学や医療だけでは健康や暮らしを支えきれない時代に入っている」と指摘されました。
 訪問診療の現場での具体的なエピソードとして、認知症のある一人暮らしの方の生活を紹介され、環境を変えないことの重要性を強調されました。入院や施設入所による急激な環境変化が、混乱や症状の進行につながることがあり、できる限り住み慣れた地域・住み慣れた家で暮らし続けられるよう支えることが大切だと語られました。
 また、認知症のある方を支えるうえで、「一人で抱え込まないこと」が何より重要であると述べられました。医療や介護サービスだけでなく、自治会、民生委員、近所の人など、地域のつながりそのものが支援の力になること、そして孤立や孤独が認知症の進行や生活の困難さにつながる現実にも触れられました。
 認知症予防の観点からも、難聴への対応、運動、社会参加、役割を持つことの重要性が示され、「人と人とのつながりが、結果として認知症の予防にも、進行を緩やかにすることにもつながる」というメッセージが、参加者に届けられています。


〇講演
「心の糸 ~写真記者の僕が認知症を見つめ続けて気づいた光~」
松村 和彦 氏(京都新聞社 写真記者)


続いて登壇されたのは、京都新聞社の写真記者として、長年にわたり認知症や社会保障、ケアの現場を取材してこられた松村和彦氏です。
 松村氏は、新聞記事や写真展で出会ってきた多くの認知症のある方や家族の姿を振り返りながら、記者として感じ続けてきた葛藤や気づきを語られました。
取材当初は「認知症」という言葉に、社会全体が抱く不安や恐れをそのまま写し取ろうとしていた自分がいたと振り返りつつ、取材を重ねる中で、それだけでは伝えきれないものがあると感じるようになったと言います。
 写真に写るのは、できなくなったことだけではなく、その人が誰かと笑い合う瞬間、何かを大切に思う気持ち、日常の中で紡がれる関係性です。
松村氏は、それらを「心の糸」と表現し、認知症になっても人と人との間には確かにつながりが残り、むしろそれが浮かび上がってくる瞬間があると語られました。
 また、記者として「伝える側」でありながら、認知症のある方や家族の姿に、自身の生き方や価値観を何度も問い直されてきたこと、取材を通して教えられてきたのは「弱さの中にある強さ」や「支え合うことの自然さ」だったと語られました。
 認知症は決して特別な人の問題ではなく、誰もが当事者になりうる時代です。
だからこそ、恐れや距離を置くのではなく、一人ひとりの人生として見つめ、関わり続けることの大切さを、写真と言葉を通して参加者に伝えられました。

〇質疑応答
講演後には、参加者との質疑応答の時間が設けられました。

会場からは、
「認知症のある家族と、どのような距離感で関わればよいのか」
「地域として、何ができるのか分からず戸惑うことがある」
といった率直な質問が寄せられました。

これに対し花戸先生は、「完璧に支えようとしないこと」「一人で背負わず、周囲とつながり続けること」の大切さを強調されました。医療や介護の専門職に任せる部分と、家族や地域が担う役割を分けて考えることで、支える側も無理なく関わり続けられると話されました。

松村氏からは、「何か特別なことをしなくても、挨拶や声かけ、関心を持ち続けること自体が大きな支えになる」との言葉があり、参加者一人ひとりが地域の中で果たせる役割について、改めて考える機会となったのではと思います。

〇閉会の挨拶:三方よし研究会 副理事長 大石和美薬剤師
 皆さま、本日は三方よし研究会 市民公開講座にお越しいただき、ありがとうございました。閉会にあたり、一言ご挨拶を申し上げます。 
 本日は、講師として 松村和彦先生 をお迎えし、「知ることが薬になる ― 写真記者の僕が認知症を見つめ続けて気づいた光 ―」と題した、示唆に富むお話をお聞かせいただきました。また、オープニングでは 花戸貴司医師 から、在宅医療の現場での貴重なご経験をもとにしたお話をいただき、会場の皆さまも深くうなずきながら耳を傾けておられました。
 「知ること」の大切さは、私ども三方よし研究会が目指す「地域よし」に通じるものだと、改めて感じています。
 これからも地域の皆さまとともに学び、対話し、気づきを共有する場づくりを続けてまいります。今後とも三方よし研究会の活動を温かく見守っていただけましたら幸いです。
本日は誠にありがとうございました。

〇受付では図書や赤飯の販売
〇三方よし実行委員のメンバー