三方よしカレンダー

2026年8月20日木曜日

第226回三方よし研究会開催のご報告

本日、第226回の三方よし研究会が開催されましたので、ここに報告いたします。




日時:2026年8月20() 18:3020:30

会場:東近江地域医療支援センター/WEB開催(ZOOM開催

当番:八幡蒲生薬剤師会・東近江薬剤師会

 

全体進行小串輝男先

 

【ゴール】

○多くの薬を服用している方について、薬を減らせる可能性を多職種で考えられるようになる

○薬を飲み始めた後に体調や様子の変化があれば、薬の副作用の可能性を考えられるようになる

 

 

進行:薬剤師会 満田久和先生


【30分学習会】

「その症状、本当に年齢のせい?〜ポリファーマシーと高コリン負荷を多職種で考える」

スマート調剤薬局 上野克彦先生

1. 高齢者が呈する不調と薬の関連

・高齢者はふらつき、転倒、尿閉、せん妄、口の渇き、認知機能低下など、様々な身体的・精神的症状を呈することがある。

・これらは「歳だから仕方がない」「老化現象だ」と片付けられてしまいがちだが、実は服用している薬が原因(副作用)となっているケースが少なくない。

・すべての症状が薬のせいというわけではないが、患者や利用者の変化に対して「もしかしたら薬の影響かもしれない」という疑いの視点を持つことが、関わり方を変える第一歩となる。

2. ポリファーマシーの本質と多剤処方の背景

・ポリファーマシーと聞くと、単に「薬が10種類以上処方されているなど、数が多い状態」をイメージしがちだが、本質は数だけでは決まらない。

・重要なのは「その薬によって、患者にふらつき、眠気、便秘、QOL(生活の質)の低下などの不利益(有害事象)が生じているかどうか」であり、不利益が生じている状態をポリファーマシーと捉える。

・高齢者は複数の医療機関(内科、整形外科など)を並行して受診し、それぞれ異なる薬局で薬を受け取っているケースが多々ある。

・それぞれの医師は必要な薬を適切に処方しているものの、「患者の服薬全体を俯瞰して管理できる存在がいない」ことが問題の根本にある。

・これに対処するため、お薬手帳の共有や、医療・介護従事者による多職種連携が不可欠。

3. 有害な薬の連鎖を生む「処方カスケード」

・薬の副作用として現れた症状を「新たな病気」と誤解し、それを治療するためにさらに新しい薬が追加処方され、薬が芋づる式に増えていく悪循環を指す。

・具体的な連鎖のモデル:①高血圧の薬(ノルバスクなど)を飲み始めた患者が、足のむくみなどの不調を訴える。②むくみを解消するために、利尿剤が追加処方される。③利尿剤によって尿量が増え、トイレが間に合わなくなるため、今度は尿失禁を改善する薬(トビエスなどの過活動膀胱治療薬)が処方される。④その薬の強い副作用(抗コリン作用)により、今度は腸の動きが止まって便秘になる。⑤便秘を解消するために、便を柔らかくする下剤(マグミットなど)がさらに追加される。などなど

・このように連鎖した処方の途中で、「最初の症状は本当にその病気だったのか」と立ち止まって疑う姿勢が極めて重要。原因となっている薬を変更・中止することで、不要な薬の追加(処方カスケード)を防ぐことができる。

4. 高齢者において薬の副作用が起こりやすい4つの身体的理由

・高齢者は、若い人であれば問題にならないような薬や服用量であっても、加齢に伴う身体的な変化によって副作用が著しく出やすくなる。

① 腎機能の低下:薬を体外へ排出する役割を持つ腎臓の機能が低下するため、薬が体内に残りやすくなる。

② 肝機能の低下:薬を代謝・分解する肝臓の機能が低下することで、薬の作用が長く持続してしまう。

③ 脳のバリア機能(血液脳関門)の低下:脳を守るバリア機能が低下するため、若い人では脳に移行しないような薬成分であっても脳へ届きやすくなり、ふらつきや認知機能低下を招く。

④ 薬に対する感受性の亢進:身体の薬に対する反応性が高くなっており、同じ量を服用していても若年者より過剰に作用が現れやすくなる。

5. 「抗コリン作用」の概要と見落とされがちな該当薬

・体内には、腸や膀胱を動かす、唾液を出す、認知機能を保つといった役割を担う「アセチルコリン」という物質がある。「抗コリン薬」は、このアセチルコリンの働きをブロックしてしまうため、逆の作用として「口渇(口の渇き)」「便秘」「尿閉(尿が出にくい)」「認知機能低下」が副作用として現れる。

・本来の目的として作用を利用する薬:過活動膀胱治療薬(トビエス等)、胃腸薬(スコポラミン等)、パーキンソン病治療薬(アーテン等)。

・副次的に抗コリン作用を併せ持っている薬:睡眠薬、抗うつ薬、抗てんかん薬(カルバマゼピン)、めまい薬(セファドール等)、抗アレルギー薬(ナウゼリンなど)、風邪の配合剤(PL配合顆粒、PA配合錠など)、市販薬(OTC医薬品)。

・特に、風邪の配合剤やアレルギー薬、市販の乗り物酔い止めなどは医療者・患者ともに見落としがちであり、注意が必要。

6. 「抗コリン薬リスクスケール」の特徴と正しい活用法

・リスクスケール(ARSなど)とは、患者が服用している個々の薬が持つ抗コリン作用の強さを「点数(スコア)」として数値化し、患者全体の「高コリン負荷」を見える化するツール。日本老年医学会のホームページからダウンロードして使用できる。

・ただスコアは目安であり、単純な掛け算ではない。スコア3の薬がスコア1の薬の3倍危険である、といった定量的なエビデンスは現時点では十分ではない。

・また個々の「薬剤」に対して設定されたスコアであるため、服用量が少量だから安心、多量だから高リスクという仕組みにはなっていない。

・このスケールは「その薬はダメだ」と判断するためのものではなく、患者全体を見ながら「抗コリン負荷を少しでも減らせないか」を多職種で前向きに検討するための支援ツールと言える。

・薬をやめる際には、自己判断で急に中止するのではなく、薬の特性を踏まえ、医師や薬剤師の指導のもとで徐々に減量していく必要がある。

・服用の期間が長くなるほど副作用のリスクは増加するため、「いつから飲み続けているか」という投与期間も極めて重要な視点。

7. 多職種における「気づき」と「情報共有」の役割

・この学習会で最も重要なのは「スケールの点数を正しく計算できるようになること」ではない、一番大切なのは、何らかの不調に対し「この症状は薬が関係しているかもしれない」と最初に気づくこと。

・各職種に期待されるアクションとして、次のことが挙げられる。

・看護師・介護職であれば、最も長く患者・利用者と接する立場として、「最近ぼーっとしている」「歩き方が危なっかしく、ふらつきや転倒が増えた」「口が渇いて食事が進まない」「便秘が続いている」といった生活上の小さなサインや変化にいち早く気づく役割を担う。

・ケアマネジャーは、お薬手帳や自宅での生活状況、家族からの「物忘れが気になる」といった情報を集約し、関係者に繋ぐ役割がある。

・医師・薬剤師は、多職種から寄せられた「気づき」の情報をトリガーとし、抗コリン薬リスクスケール等を活用して処方内容を検討し、より安全な薬への切り替えや減薬・適正化を具体的に実行する役割がある。

・まとめとして、現場の第一線にいる介護職や看護師の気づきを、多職種で共有し合うことによって初めて、患者にとってより安全な薬物療法と生活の質の維持につなげることができる。



【症例報告】

「ポリファーマシーを起こしやすい薬剤の紹介」

スマート調剤薬局 上野克彦先生



1. ポリファーマシー(漫然とした長期処方)になりやすい薬剤

日常の医療現場で非常に頻繁に使われており、明確な見直しがないまま長期処方に至りやすい代表的な薬物治療の系統。

・NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬):セレコシブ(セレコックス)などの消炎鎮痛薬で、現場で非常に広く使われている。

・PPI(プロトンポンプ阻害薬/胃薬):ボノプラザン(タケキャブ)やランソプラゾールなどが非常によく処方されている。服用をやめると胸焼け(胃焼け)が再発するため、維持療法として処方だらだらと長引きやすいのが特徴。

・H2ブロッカー(胃薬):現在は主にファモチジンが使われているが、PPIと同様に漫然と長く使われがち。

・ベンゾジアゼピン系(安定剤・抗不安薬):種類が非常に多く、多くの患者に処方されている。医療機関側でも、一度処方が始まると長期処方に至ってしまうケースが多く見られる。

・抗コリン薬:デシケアやソピエスなどの尿トラブル改善薬が含まれ、これらも漫然と長く使い続けてしまいやすい代表例。

2. ポリファーマシーを脱出するための具体的な対策

重複処方や副作用(有害事象)を防ぎ、減薬・適正化を進めるためのアプローチ。

・お薬手帳の1冊化:薬の重複や飲み合わせを正しく管理するため、お薬手帳を必ず1冊にまとめることが最も重要。

・「かかりつけ」の決定:患者が自分自身で信頼できる「かかりつけ医」「かかりつけ薬剤師」を決めることが、ポリファーマシーを脱出する最大の手段。

・抗コリン薬リスクスケールを用いた点数化:有害事象が出た際、スケールを用いて薬の負荷を点数化し、点数を減らせるような代替薬の選択を医師や薬剤師を交えて検討する。

・定期的な処方の見直し:本当に必要な薬であるか、状態の変化に合わせて定期的に評価し直す習慣が求められる。

3. 残薬問題へのアプローチと患者向け啓発ツール

家庭に余っている薬の整理や、患者自身に気づきを促すための具体的なツールの紹介。

・ブラウンバック(残薬回収)運動の推進:1990年代にアメリカで始まった、余った薬を茶色の袋に入れて薬局へ持ってきてもらう運動で、日本や滋賀県でも取り組まれている。

・滋賀県医師会による「ブルーの袋」の配布:家庭で余っている薬を整理して持ってきてもらうため、「青い袋」とリーフレットを配布し、残薬整理の啓発を行っている。

・患者向けリーフレット「あなた、薬飲んでますか」:日本製薬工業協会が作成した、高齢者で薬が増える理由や副作用について分かりやすく伝える冊子。「気分の落ち込み」「もの忘れ」「めまい」「ふらつき」「尿失禁」などの副作用が疑われる症状が出た際、自己判断で急に薬を止めず、まずはかかりつけ医や薬剤師に相談して徐々に減らすよう促す。



【グループワーク】

テーマ『追加症状を薬の副作用として考えてみる』

〜視点〜

薬を始めた時期と症状が現れた時期を、医師や薬剤師など多職種で共有できていますか?

○新しい症状が現れたとき、薬の副作用かもしれないと相談できる薬剤師さんはいますか?



【発表】

<1グループ>

メンバー構成は、医師、保健師、薬剤師、看護師、ケアマネジャーが参加。

・講義で示されたポリファーマシーや抗コリン作用の現状を踏まえ、多くのメンバーが「薬の調整が必要である」という共通の認識を持っていた。

・医師からは「薬剤師からもっと意見を発信してほしい」という要望があり、一方で「医師側からの働きかけやアプローチがほしい」という意見も交わされた。

・この研究会をきっかけに、職種を超えてお互いに積極的なアプローチや意見交換ができる良好な関係を築いていきたい。


<2グループ>

ポリファーマシー解消には、多職種が気兼ねなく意見交換できる関係作りが最も重要。

マッサージや早寝早起き、食物繊維の多い食事など、生活習慣の改善を通じて健康になり、実際に家族の睡眠薬や便秘薬を減らせた実体験が紹介された。

残薬自体を問題視するのではなく、なぜ残薬が生じるのかという背景や原因を患者と一緒に前向きに考える姿勢が大切。

在宅訪問診療の開始や施設入所のタイミングは、多職種がチームとして連携し、薬を一掃・整理する最大のチャンスとなる。

紙のお薬手帳や地域共通の「在宅療養手帳」などのノートを活用し、多職種間で情報を1箇所に見える化することが理想的ではないか。


<3グループ(会場)>

胃薬(ドグマチール)の中止でせん妄が治まった例や、精神科と整形外科の重複処方を整理して妄想や抵抗が治まった事例を共有した。

・長期服用で精神症状や抗コリン作用などの有害事象が出現するリスクを指摘し、多職種の気づきによる改善の可能性を話し合った。

・入院時の持参薬チェック体制を評価。さらに医師の訪問診療時に薬剤師やケアマネジャーが同時同行することで、時間の節約や多職種間でのスムーズな情報共有が図れる。


【指定発言】

⚫︎東近江薬剤師会 カギヤ薬局 小島聡子先生

 久しぶりに参加させてもらいましたが、やはり多職種が連携して、1つの話題について話し合えるこの『三方よし研究会』という場がとても素晴らしいことだなと改めて感じました。

 私は薬屋なので『薬を売ってなんぼ』という考えはあるかもわかりませんけれども、やはり体の負担を考えると、お薬に少し助けてもらいつつ、『社会的処方』と言いますか、さきほど森永先生が言われたような生活、いろんな『集いの場』に出ていくという、社会的処方ができるお医者さんが増えていくといいなとも思いました

 それから、在宅に行っている訪問看護師さんであるとか、介護の方がやはり最初に副作用に気づけるキーポイントの方々かなと思いますので、引き続き目を光らせていただくのと、お薬手帳ですね、お薬手帳に『この薬が今日から飲み始める薬ですよ』という、もう少し列じゃなくて分かりやすいようなお薬手帳を作っていくのも課題なのかなと思いました。ありがとうございます

⚫︎公益社団法人滋賀県看護協会在宅ケアセンターみのり 夏原 詠子所長
 皆様には日頃から大変お世話になりありがとうございます。本日は薬剤師の先生方から貴重なご講義をいただきありがとうございました
 今回、ポリファーマシーというテーマを取り上げていただいたことをきっかけに、事業所の利用者様が実際どれぐらいお薬を服用されているのだろうと考えて調べてみました。100名ほど利用者様がおられるんですが、なんと8割の方が6種類以上のお薬を服用されていました。最も多い方では、18種類もの薬を服用されていました。また、これ以外にも市販薬やサプリメントなど、処方薬以外のものを使用されている方もおられました
 薬の説明書には、効能効果、取り扱い上の注意事項、相互作用、副作用など様々な情報が記載されています。改めて確認してみると、『組み合わせに注意が必要』と書かれているお薬がたくさんありました。複数の診療科・医療機関からの重複処方や、薬の種類だけでなく、飲み合わせによっても薬の効果が弱まったり強まったりということがあります。その結果、転倒したり、認知機能の低下などの症状が現れることがあります
 しかし、私たちでもこれらの症状が、病気の進行・病状の悪化によるものなのか、薬の副作用によるものなのかを見分けるのは、とても難しいと感じています。実際に、症状が出るたび病院を受診されて、新たな病気と判断されて薬がどんどん増えていく、講義でも教えられていた『処方カスケード』に陥っている方もおられました。その方の状態や生活に合わせて、必要な薬を適切に使用することは、副作用を防いで、この方らしい生活が送れることにつながるのだと改めて認識しています
 今回、改めて薬の説明書を見直してみました。初めて服用する薬であることが分かりやすく記載されているものもあり、新しく薬を開始した後の体調の変化を観察する上で重要な情報になると感じました。日々の生活の中で、利用者様がどのような思いで、どのように、いつから服用されているのか、どんな生活を送っておられるのかを知ることは、看護に携わる私たちにとって、とても大切な役目だと思っています
 一人の当事者に関わる全員が、今回学ばしていただいた薬の知識やリスクスケールの使用、そして『もしかして薬のせいかもしれない』という大切な気づきの視点を持って利用者様を観察し、情報を共有する中で改善を提案していく。そして小さな変化に気がついた際には、いつでも気軽に、かかりつけの先生に相談できる関係を作っていきたいと考えています
 また、診察室の外でのリアルな生活情報をドクターにお伝えするなど、遠慮なく相談し合える『顔の見える関係作り』を大切にしながら、みんなが少しずつ力を合わせていくことが、利用者様の安全で、この方らしい生活につながるのではないかと考えています。本日はグループワークも含め、薬について今一度しっかりと考える機会を与えてくださったことに、心より感謝しております。ありがとうございました。


【連絡事項】

第227回 三方よし研究会 2026年9月17日(木)18:30~20:30

当番:近江八幡市立総合医療センター


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

また次回もよろしくお願いいたします。



2026年7月19日日曜日

第225回 三方よし研究会の報告

【活動報告】第225回 三方よし研究会

テーマ「子三方よし研究会で何ができるだろう?」

令和8年7月18日、第225回「三方よし研究会」を、東近江市の中野ヴィレッジハウスとオンラインをつないだハイブリッド形式で開催しました。

今回のテーマは、「子三方よし研究会で何ができるだろう?」

東近江圏域の各地域で、医療・介護・福祉の専門職や地域住民がつながり、地域に根ざした活動を続けている4つの「子三方よし研究会」から、それぞれの歩みや活動内容、成果、今後の課題についてご報告いただきました。

リレートークの後には、当初予定していたグループワークの枠組みを超え、会場とオンラインの参加者が一つになって語り合う「車座」での対話を実施しました。

医療・介護・福祉の連携にとどまらず、地域住民、行政、商店、企業など、地域に存在する多様な人や資源とどのようにつながり、暮らしを支えていくのか。発表者や参加者の皆さまから、これまでの実践に基づく熱い思いや、これからの地域づくりにつながる多くの意見が寄せられました。






リレートーク

地域で育つ「子三方よし研究会」

1.チーム永源寺

 

東近江市永源寺診療所 花戸貴司先生

はじめに、東近江市永源寺診療所の花戸貴司先生から、「チーム永源寺」の活動についてご報告いただきました。

花戸先生は、2000年に永源寺へ赴任されてから、地域医療に携わってこられた歩みを振り返りながら、医療と介護の連携だけでは地域の暮らしを支えきれないことをお話しされました。

「医療と介護の連携は、地域を支える『共助』のごく一部分に過ぎません。大切なのは、自助・互助・共助・公助の間に『隙間をつくらない活動』なんです。」

チーム永源寺では、医師や看護師、薬剤師、栄養士、ケアマネジャーといった医療・介護の専門職だけでなく、手話通訳者や里山活動家をはじめ、地域で暮らし、活動している多様な人たちとの横のつながりを大切にしてこられました。

花戸先生は、病気や疾患を中心に支援を考える「縦の軸」と、地域やコミュニティーを中心に暮らしを考える「横の軸」をつなぐことが重要であると説明されました。

一人の人を病気や障害だけで捉えるのではなく、その人がどのような地域で、誰とつながり、どのような暮らしを続けてきたのかを考える。そのためには、医療・介護の専門職だけではなく、地域に関わる多様な人たちとの関係が欠かせないと語られました。

また、活動を長く続けるうえで大切にしていることとして、花戸先生は、

「医者が偉そうにしないこと。」

と率直に話されました。

専門職が一方的に教えたり、活動を主導したりするのではなく、地域の人たちと同じ目線で関わり、ともに楽しむ姿勢が重要であるといいます。

さらに、外側に客観的な基準がある「サイエンス」だけでなく、自分たちの内側にある、

「楽しい」
「面白い」
「美味しい」

といった感覚を大切にする「アート」の尺度についてもお話しされました。

地域の人たちと「楽しい」「面白い」と感じられる価値観を共有することが、活動を無理なく継続し、20年以上にわたって地域のつながりを育んでこられた源泉であると語られました。

2.子三方よし湖東地区

 



東近江市地域包括支援センター 金子尚美さん

続いて、東近江市地域包括支援センターの金子尚美さんから、「子三方よし湖東地区」の活動をご報告いただきました。

子三方よし湖東地区は、2016年から活動を始め、10年以上にわたって継続しており、現在は第39回を数えています。

開催時期を毎年6月、9月、12月、3月の年4回に固定し、毎回20名前後の多職種が参加していることが紹介されました。

研究会では、オーラルフレイルや心不全をテーマとした学習、実際の支援事例を通じた事例検討など、その時々の地域課題や参加者の関心に応じて、多彩な内容に取り組んでいます。

金子さんは、活動を継続してきた最も大きな成果として、参加者がお互いの専門性だけでなく、人柄や考え方についても理解できるようになったことを挙げられました。

日頃から顔を合わせて学び、意見を交わすことで、職種や所属機関を超えた「顔の見える関係」が築かれ、困ったときに気軽に相談し合える関係へと発展してきたといいます。

具体的な実践として、「小多機での看取り」や「心不全の地域連携」などについて報告されました。

普段から地域の専門職同士がつながっているからこそ、支援が必要になった際にも、職種間で速やかに相談し、役割を分担しながら対応することができたことが紹介されました。

単に名刺や連絡先を知っているだけではなく、お互いの専門性や人柄を理解したうえで関係を築いておくことが、実際の支援場面において大きな力になることを、具体的な事例を通してお話しいただきました。

3.てんびん倶楽部(五個荘)


社会福祉法人 六心会 奥村昭さん

続いて、社会福祉法人六心会の奥村昭さんから、五個荘地域で活動する「てんびん倶楽部」についてご報告いただきました。

「てんびん倶楽部」という名称は、近江商人を象徴する天秤棒にちなんで名付けられました。

2015年の発足以来、

「焦らず、ゆるく、つながる」

ことを大切にしながら、地域に根ざした活動を続けています。

てんびん倶楽部の大きな特徴の一つが、専門職が地域のサロンなどへ出向いて行う「出前講座」です。

歯科医師が住民の前で口腔ケアを実演したり、福祉職が認知症について分かりやすく説明したりするなど、専門職が地域へ出向き、住民と直接顔を合わせる機会を大切にしてきました。

こうした活動を通して、地域住民に医療や介護、福祉を身近に感じてもらうとともに、専門職にとっても、地域で暮らす人たちの声や生活の実情に触れる機会となっています。

奥村さんは、コロナ禍においても対面での開催を大切にしてきた理由について、

「メンバー全員の近況報告を通じて、地域の課題、いわゆるシャドーワークを共有する時間を大切にしたかったからです。」

と語られました。

特別なテーマを設けなくても、参加者がそれぞれの近況や、日々の業務、地域で気になっていることを話すことで、制度や会議の場には表れにくい地域の困りごとが見えてきます。

現在では民生委員もメンバーに加わり、地域住民の身近な相談や困りごとを拾い上げ、必要な人や機関につなぐことができる、心強いプラットフォームへと成長しています。

4.ぼちぼちねっと竜王




小規模多機能 山かがみ 山下京子さん

リレートークの最後は、小規模多機能山かがみの山下京子さんから、「ぼちぼちねっと竜王」の活動についてご報告いただきました。

ぼちぼちねっと竜王は、2013年に発足しました。

活動を始めた背景には、

「在宅生活を支えるには、病院だけでは限界がある」
「地域で暮らし続けるためには、多職種によるチームが必要である」

という思いがあったといいます。

活動では、参加者が小さなグループに分かれて意見を交わす、スモールグループでのディスカッションを大切にしてきました。

少人数で話し合いを重ねる中で、それまで電話や書面上では名前や声を知っていても、実際には顔が一致していなかった人たちが、次第にお互いを知り、一つのチームとしてつながっていったと振り返られました。

「名前と声は知っていたけれど、顔が一致していなかった人たちが、一つのチームになっていきました。」

コロナ禍では活動を一時休止せざるを得ませんでしたが、現在は会場とオンラインを組み合わせたハイブリッド形式で活動を再開されています。

一方で、ハイブリッド形式になったことで会場参加者が減少するなど、新たな課題も生じていることが報告されました。

それでも山下さんは、

「ぼちぼち、少しずつでも、多職種で学び合う場を守り続けたい。」

と、活動を継続する強い思いを語られました。

車座での対話




地域から「商い」まで、三方よしの輪を広げる

4つの子三方よし研究会からのリレートーク終了後は、参加者同士による意見交換を行いました。

当初はグループに分かれて話し合う予定でしたが、花戸貴司先生から、

「せっかく集まったのだから、みんなで顔を見ながら話しましょう。」

との提案があり、会場参加者全員が輪になり、オンライン参加者も交えた「車座」での対話となりました。

それぞれの地域で活動を続ける中で感じている悩みや工夫、医療・介護以外の人たちとの連携、独居高齢者や身寄りのない方への支援など、幅広いテーマについて意見が交わされました。

「集まりやすさ」への工夫

はじめに、研究会を開催する曜日や時間帯について意見が交わされました。

花戸貴司先生からは、チーム永源寺では、あえて平日の午後1時30分から開催していることが紹介されました。

「私たちは、あえて平日の午後1時半に開催しています。そうすることで、行政の保健師さんも『業務』として参加しやすくなるんです。」

地域活動というと夜間や休日に開催されることも多くありますが、行政職員や専門職にとっては、勤務時間内であれば業務として参加しやすい場合があります。

ケアプランセンター加楽の楠神からも、

「ケアマネジャーにとっても、交代制で参加できる日中開催は非常にありがたいという声を聞いています。」

と、日中開催のメリットについてお話ししました。

オンラインで参加された多田さんからも、

「つながりをつくることが目的であれば、日中の方が、より多様な人を巻き込めるのではないかと感じました。」

との意見がありました。

参加しやすい場をつくるためには、夜間や休日に固定するのではなく、参加してほしい人の立場や働き方を考えながら、開催時間を工夫することが大切であると共有されました。

地域の枠を超えた悩みと、プラットフォームの意義

栄養士会の澤谷さんからは、近江八幡地域でも多職種や地域住民がつながる場をつくろうとしているものの、

「誰を中心に進めるのか」
「どのように次の世代へつないでいくのか」

という点に悩んでいることが紹介されました。

「近江八幡でもつながりをつくろうとしていますが、誰をボスにするか、どうやって次世代につなぐか、突破口を悩んでいます。」

これに対して、社会福祉法人六心会の奥村昭さんは、特別なテーマや明確な結論を求めなくても、集まれる場を継続して開いておくことに意味があると話されました。

「何か特別なテーマがなくても、『ひたすらその場を開き続けること』が大事です。課題をそこに放り込んでおくことで、思わぬところでつながりが生まれる。それがプラットフォームの役割だと思っています。」

誰か一人のリーダーがすべてを背負うのではなく、地域の人たちが課題や気づきを持ち寄ることのできる場を開き続ける。その中で、課題と人、活動と活動が自然につながっていくことが、地域におけるプラットフォームの大切な役割であると語られました。

大学教授の髙崎さんからは、栄養の重要性を伝え、栄養士が地域のチームの中でどのように力を発揮できるのかについて、日頃から難しさを感じているとの発言がありました。

「栄養の重要性を訴えても、チームの中でどう活躍するかは難しい問題です。今日ここで、同じように悩む仲間がいると分かったことが一番の収穫です。」

課題をすぐに解決できなくても、同じ悩みを持つ人と出会い、思いを共有できること自体が、次の一歩につながることを感じる意見交換となりました。

医療・介護を超えた「地域ビジネス」との連携

対話の中では、医療・介護・福祉の専門職だけではなく、地域で商売や仕事をしている人たちとの連携についても意見が交わされました。

花戸貴司先生からは、

「医療・介護だけでなく、コンビニや銀行、道路工事をしているような、『ビジネス』として地域に根ざしている人たちと、どうつながれるかが、これからの鍵になるのではないでしょうか。」

との提案がありました。

地域の中には、日々の仕事を通じて高齢者や住民と接している人がたくさんいます。

医療・介護の専門職よりも、銀行や郵便局、商店、コンビニ、美容室などの方が、住民の日常の変化に早く気づくこともあります。

宇都宮さんからは、

「最近は、銀行のビルで研究会を開くなどの動きもあります。司法書士さんがACPに関わる事例も増えていますね。」

と、金融機関や司法関係者との連携について紹介されました。

花戸先生からは、銀行の窓口職員が認知症サポーター養成講座を受講していることも多いとして、

「振り込み詐欺を防ぐだけでなく、『いつもと様子が違う』『何かおかしい』という気づきを専門職につないでくれれば、三方よしの仕組みになります。」

と話されました。

地域包括支援センターの河島さんからは、

「平和堂さんなどの量販店でも、数百人単位で認知症サポーター養成講座を受けてくださっています。」

と、地域の量販店における取り組みが紹介されました。

楠神からも、地域における郵便局との連携について報告しました。

「私の地域では、郵便局長さんが会議に来てくださっています。夏場には、高齢者の方が休憩できる場所として郵便局を開放してくださるなど、心強い存在になっています。」

さらに、栄養士会の澤谷さんからは、近江八幡地域における商店の取り組みについてお話しいただきました。

「近江八幡では、電気屋さんが電球交換の際にLED補助金の申請をサポートしたり、美容室が送迎を含めた見守りをしたりと、『五つ目の商助』とも呼べるような商いの力が生まれています。」

自助・互助・共助・公助だけでなく、地域に根ざした「商い」が暮らしを支える力となっていることが共有されました。

医療・介護の制度やサービスだけで地域生活を支えるのではなく、日常的に地域住民と接している企業や商店ともつながることで、見守りや早期発見、生活支援の可能性が大きく広がることを感じる対話となりました。

意思決定支援と「未来ノート」

独居高齢者や身寄りのない方が増える中で、本人が住み慣れた地域でどのように暮らし続けるのか、また、自分のこれからの人生についてどのように考え、意思を伝えていくのかについても意見が交わされました。

花戸貴司先生は、地域で暮らしていた独居の方が、支援上の不安などから、サービス付き高齢者向け住宅などの「箱」へ移っていく現状について、次のように話されました。

「最近は独居の方が増え、地域からサ高住などの『箱』へと吸い込まれてしまう現象があります。そうなると、地域での生活から切り離されてしまう。これは切ないことです。」

安全や安心を求めて住まいを移すことが必要な場合もありますが、本人が長年築いてきた地域とのつながりや役割が失われてしまうことへの課題が提起されました。

宇都宮さんからは、

「病院からお家に帰る代わりに、施設を選択してしまうことがあります。自分のこれからの人生をどう過ごしたいか、市民がアンテナを張って考える必要があります。」

との発言がありました。

医療・介護が必要になってから急いで選択するのではなく、元気なうちから自分の暮らし方や人生について考え、家族や支援者と話し合っておくことの重要性が共有されました。

地域包括支援センターの川島さんからは、そのためのツールとして「未来ノート」が紹介されました。

「名称にも思いを込めて、『未来ノート』としています。死の準備をするためのものではありません。これまでの人生を振り返り、これからの人生のプランを前向きに立てるためのツールです。」

未来ノートは、人生の最終段階だけを考えるものではなく、自分がこれまでどのように生きてきたのか、何を大切にしているのか、これからどのような暮らしを送りたいのかを考えるためのものです。

河島さんからは、

「身寄りのない方の支援など、これからの多死社会における意思決定支援を、医療・介護の連携の中で話し合っていきたいです。」

との思いが語られました。

本人の意思を中心に置きながら、医療・介護・福祉の専門職、地域住民、関係機関がどのように支え合うのか。今後、地域全体で考えていく必要のある重要なテーマとして共有されました。

小鳥輝男先生による総括

研究会の最後には、三方よし研究会実行委員会の小鳥輝男先生から、今回のリレートークと車座での対話を振り返り、総括のお言葉をいただきました。

小鳥先生は、三方よし研究会が始まった当初から、

「具体的な取り組みは、それぞれの地域の『子三方よし研究会』で実践していこう」

という考えを大切にしてきたことをお話しされました。

「三方よし研究会の原点は、『具体的なことは各地域の「子」でやろう』ということでした。」

そして、活動を続けるうえでは、すぐに成果を求めたり、形を固定したりするのではなく、

「焦らず、ゆっくり」

進めることが大切であると語られました。

「当時から大切にしてきたのは、『焦らずゆっくり』、そして『規則に縛られず、必要に応じて形を変えていく』という柔軟さです。」

地域によって、人口規模も資源も、参加する人も、抱えている課題も異なります。

そのため、同じ方法をすべての地域に当てはめるのではなく、それぞれの地域に合った形に変えながら活動を続けることが重要です。

小鳥先生からは、各地域で立派な活動が育っていることへの評価とともに、

「今は立派な活動が育っていますが、これからはさらに地域のあらゆる資源を巻き込んで、この輪を広げていきましょう。」

との力強いメッセージをいただきました。

終わりに

今回の研究会では、「チーム永源寺」「子三方よし湖東地区」「てんびん倶楽部」「ぼちぼちねっと竜王」の4つの活動から、それぞれの地域に合った方法で、人と人とのつながりを育ててきた歩みをご報告いただきました。

活動の形や開催方法は異なっていても、共通していたのは、無理なく集まり続けること、顔の見える関係を築くこと、そして、地域で生まれた困りごとをみんなで持ち寄ることの大切さです。

また、医療・介護・福祉の専門職だけでなく、行政、民生委員、銀行、郵便局、量販店、電気店、美容室など、地域で暮らしや商いに関わる多様な人たちも、地域を支える大切な仲間であることを再確認しました。

地域によって強みも課題も異なります。

しかし、お互いの活動を知り、悩みや工夫を共有し、対話を重ねることで、新たな気づきやつながりが生まれます。

「焦らず、ゆっくり」、そして、形や規則に縛られることなく、地域の実情に合わせて活動を育てていく。

三方よし研究会の原点と、子三方よし研究会が果たしている役割を改めて確認する、充実した研究会となりました。

次回のご案内

第226回 三方よし研究会

日時
令和8年8月20日(木)18時30分~20時30分

開催方法
オンライン開催

当番
八幡蒲生郡薬剤師会・東近江薬剤師会

次回の研究会でも、多くの皆さまとお会いできることを楽しみにしております。

花戸先生より

三方よし研究会の活動は、皆さまからの温かいご寄付とご支援によって支えられています。

PayPayなどによるご支援も受け付けておりますので、今後も地域のつながりを育み、誰もが安心して暮らし続けられる地域づくりを進めていくため、引き続きご支援とご協力をよろしくお願いいたします。

2026年7月5日日曜日

三方よし研究会主催の「東近江圏域介護職員初任者研修」の開講式について

三方よし研究会主催の「東近江圏域介護職員初任者研修」の開講式を行いました。

地域の介護人材確保に少しでも力になれればとの思いで続けてきたこの研修も、今年で11年目。
オリエンテーションの後には、小串先生よりご挨拶をいただき、今年度の研修を無事にスタートすることができました。

今年度は3名の方が受講され、これから全135時間の研修に取り組まれます。
介護の知識や技術を学ぶことはもちろん、受講生同士や講師の皆さまとの出会いやつながりも大切にしながら、一歩ずつ学びを深めていただければと思います。
3名の受講生の皆さんが無事に研修を修了され、介護の仕事への就労につながるよう、最後までしっかりとサポートしていきたいと思います。

講師をはじめ、研修の運営にご協力いただいている皆さまにも、改めて感謝申し上げます。
引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。



2026年6月18日木曜日

第224回 三方よし研究会開催のご報告

本日、第224回の三方よし研究会が開催されましたので、ここに報告いたします。



日時:2026618() 18:3020:30

会場:きいと/WEB開催(ZOOM開催

当番:東近江介護サービス事業者協議会在宅部門・施設部門(社会福祉法人六心会

 

全体進行小串輝男先

 

【ゴール】

○「東近江市多文化共生推進計画」を共有す

外国人住民の困りごとを相談事例等を通して知り、多職種・地域連携でできることを考える

顔の見える関係・ネットワークを作り、連携を深める。

 

【情報提供】

「東近江圏域介護職員初任者研修」の開催について


・東近江圏域介護職員初任者研修は、過去11年間にわたり継続して開講されており、令和8年度も開催が決定しました。この研修は、三方よし研究会のメンバーが講師となり、現場の最前線の知識や経験を伝える内容となっているのが大きな特徴です。

・令和8年度の受講申し込み締め切りは、6月24日となっています。ちなみに日野町や東近江市では、条件に応じて研修受講費用の一部を補助する制度が始まっていますので、周囲に興味のある方がいれば、ぜひ周知お声がけをお願いします。

 

進行:六心会  洋三さん


【30分学習会】

「東近江市における外国人住民の概況と「東近江市多文化共生推進計画」の概要について」

東近江市企画部企画課  係長  溝江  麻衣子さん


1. 東近江市における外国人住民の概要

・東近江市の総人口は平成17年の約11万6,000人をピークに減少に転じており、令和8年6月1日時点では11万1,355人となっている。一方で、外国人住民数はこの10年間増加を続けており、令和8年6月1日現在で5,322人に達している。

・国籍構成としては、以前はブラジル国籍が最多だったが、令和元年頃からベトナム国籍が急増している。令和7年の後半には一時期、ベトナム国籍の人数がブラジル国籍を上回る逆転現象が起きたこともある。

・現在、東近江市は滋賀県内で最もベトナム国籍の住民が多い自治体となっている。

日本人住民の平均年齢が47.0歳であるのに対し、外国人住民は33.3歳と約15歳も若いのが大きな特徴。

・特に20代は外国人住民全体の31.4%(日本人住民の約3倍の比率)を占めており、地域の労働力として重要な世代が集中している。

・在留資格別では「永住者」が最も多く、次いで「定住者」となっている。

・特筆すべきは、10年前と比較して「家族滞在」や「永住者の配偶者等」といった資格を持つ人が大幅に増加している点。

・これは、かつての期間限定の労働という形態から、家族を呼び寄せて地域で共に暮らす「定住化」へとフェーズが移行していることを示しているといえる。


2. 東近江市多文化共生推進計画の概要

・本計画では多文化共生を「国籍に囚われず、全ての住民が互いの文化や多様な価値観を認め合い、平穏で心豊かに生きていくこと」と定義している。

・外国人住民を単なる「支援の対象」ではなく、「地域社会を共に作る一員」として捉え、人権を尊重し能力を最大限に発揮できる活力ある社会を目指している。

国のロードマップに呼応し、自治体として初めて「ライフステージに応じた支援」という視点を盛り込んだ。これは、これまでの「一時的な滞在」を前提とした支援から、誕生、就学、就職、結婚、そして老齢期に至るまでの切れ目のない支援体制の構築を目指している。


3. 5つの基本目標と具体的な施策内容

⚫︎基本目標1:コミュニケーションの円滑化(最重要課題)

・計画の中で最も大きなウェイトを占めている。日本語、特に「日曜日」の読み分けや魚の数え方(1匹、2匹、3匹など)といった独特の難しさを理解することが前提となる。

・多言語での情報発信に加え、行政や地域からの情報を分かりやすく伝える「やさしい日本語」の普及に注力している。

⚫︎基本目標2:生活環境の整備(住みやすさの向上)

・医療・福祉・保健体制: 日本の複雑な医療制度や社会保険の仕組みを周知し、誰もが安心してサービスを利用できる環境を作る。

・教育環境: 日本語指導が必要な児童生徒への支援や、保護者への情報共有を強化する。

・災害対策: 災害時に「高台へ避難」という言葉が伝わらない事例があった教訓から、「高いところに逃げて」といったシンプルかつ即時性の高い表現(やさしい日本語)による情報伝達を推進している。

⚫︎基本目標3:社会参画の促進

・外国人を「守られる存在」から「地域を支えるスタッフ」へと転換させるための活動を支援している。

⚫︎基本目標4:ライフステージ別の課題解決

・青年期: キャリア教育の充実。親と同じ職業に就くだけでなく、多様な選択肢を提示する。

・老齢期(65歳〜): 介護保険制度や高齢者福祉サービスの周知を早期から行い、孤立を防ぐ。

⚫︎基本目標5:推進体制の整備

・市役所内部の連携(町内プロジェクト)だけでなく、警察、消防、医療機関、ボランティア団体と情報を共有し、犯罪の抑止や社会的孤立を防ぐネットワークを構築する。


4. 専門職や地域住民へのメッセージ

外国人住民が日本で働くために、どれほどの労力をかけて日本語を学び、不自由な思いをしながら生活しているかを想像し、寄り添う姿勢が求められる。

地域のイベントや避難訓練に積極的に声をかけ、「地域の仲間」として迎え入れることが、安心安全な街づくりの第一歩となる。

・多職種・多機関の連携として、医療や福祉の現場で生じる困りごとは、特定の部署だけで解決できるものではない。行政や国際交流協会、そして専門機関である「滋賀外国人相談センター」などを活用し、チームで支える仕組み作りが必要。






【事例報告】

「東近江市の外国人住民が抱える問題とその対応について~東近江国際交流協会の相談活動を通して私たちができることを考える~」

東近江国際交流協会  事務局長  モリコーニ  直美さん


1. 東近江国際交流協会の活動について
 協会は主にボランティアによって運営されており、あらゆる国籍の人が集い、多文化交流を楽しむ場を提供している。
5つの姉妹都市との「姉妹都市交流事業」と、在住外国人の支援や相談を担う「多文化共生推進事業」を行っている。
個別指導形式の教室を週末に開催しており、1回100円という低価格で、各自のレベルやニーズに合わせた学習を支援している。

2. 相談活動から見える課題と対応
年間約100件の相談があり、内容は日本語学習のほか、ゴミ出しや騒音などの近隣トラブル、ヤングケアラーの懸念など多岐にわたっている。
認知症を患ったポルトガル語話者への介護支援や、言葉が通じず身元不明となった迷子の高齢者への対応など、緊急かつ専門的な通訳・翻訳が必要なケースも過去相談にはあった。
1人で出稼ぎに来ている人は強い孤独感を抱えており、昨年初めて開催したスピーチ大会では「家族の笑顔を思い浮かべて辛さを乗り越えている」という切実な思いが語られた。

3. 職場や地域での円滑なコミュニケーションのコツ
理解していなくても「分かりません」と言い出せなかったり、間違って理解したまま「分かった」と答えたりするケースがあるため、注意が必要。
日本特有の「空気感で理解する」ことは難しいため、言葉による明確な伝達が不可欠。
・「家族」は外国人住民にとって家族は最大の関心事であり、家族の話題を出すことが心の距離を縮める最も有効な方法の一つ。
・国ごとに文化的「スイッチ」がある。中国のメンツ、韓国の年齢序列、インドネシアの怒る上司への不信感など、国ごとの価値観(スイッチ)を尊重し、不要な摩擦を避けることが重要。

4. 今後の展望と連携
違いを否定せず、互いの多様性を認め合い「違いが素晴らしい」と言い合える関係性を築くことが共生の第一歩。
解決が難しい問題については、多言語対応が可能な「滋賀外国人相談センター」などの専門機関へ繋いでほしい。



進行:花戸  貴司先生


【グループ別意見交換】

それぞれの立場での外国人住民との関わりの中で課題となっていることについて共有する。

・以下ののテーマについて、1つ以上について話し合う。

外国人住民が「安心して利用できる保健・医療・福祉体制の整備」のために必要な取り組み基本計画2「住みやすさの向上」施策3

外国人住民の「災害への備えと災害時の対応の周知」のために必要な取り組み基本計画2「住みやすさの向上」施策4

外国人住民の「ライフステージに応じた支援」(基本目標2)のために必要な取り組み


【発表】

<1グループ>

ケアマネジャー、地域包括支援センター職員、薬剤師、看護師、医師、保健所職員という職種で構成された。

乳幼児健診の現場などで外国人の親子が増えている現状がある。特に20代・30代の若い世代が増えていることは、支援者も肌で感じている

・親よりも日本語が堪能な子供が、病院で通訳を務めるケースが多く見られる。しかし、癌の告知や重篤な病状、終末期の意思確認といった非常にデリケートで重い内容を、子供に翻訳させることの是非や、その心理的負担を危惧する意見も出された。

対面や電話では言語の壁が厚い一方で、LINEなどのテキストベースのやり取りであれば、翻訳機能等も活用しやすく、より確実な情報伝達ができるのではないか。

外国人に「日本のルールに合わせてもらう」という一方的な視点ではなく、受け入れる側が相手の国の事情や宗教的背景を積極的に学び、理解しようとする姿勢が不可欠。

保健所の立場からは、結核などの感染症対応において、本人だけでなく勤務先の管理者や通訳も含めて、正しい知識の普及や服薬継続の重要性を指導している実情がある。


<2グループ>

病院ソーシャルワーカー、地域連携事務、在宅ケアマネジャー、障害相談員が、実務レベルでの対応について議論した。

臨床現場では「ポケトーク」や翻訳アプリを使用しているが、厳密なインフォームド・コンセントを行うには精度が不足する場合があった。市役所や国際交流センターでも通訳が見つからず苦慮した際、厚生労働省が提供する「無料の医療通訳」電話サービスを利用して解決した事例がある。

医療・介護現場で働く外国人職員が増える中、漢字にカタカナを併記するなどの細やかな配慮や、既に現場で活躍している先輩外国人職員による直接指導を取り入れ、職場定着を図っている。

地域で開催されている日本語教室は、単なる語学学習の場にとどまらない。ゴミ出し等の生活ルールや、災害時の避難方法、防災知識を伝える「地域生活の教育拠点」としての役割を担っている。

・祭りなど、日本の伝統文化や地域の祭りに興味を持つ外国人は多く、町内の飲み会や行事へ積極的に参加してもらうことが、互いの心の垣根を低くし、地域社会に溶け込むための大きなキーワードになる。


<メイン会場グループ>

医師、施設長、病院理事長、ケアマネジャー、薬剤師、歯科衛生士のメンバーにより検討した。

日本の医療制度は、正規の滞在者であれば高齢者であっても通訳を介して適切にサポートできる体制が整っている。国籍を問わず「困りごとの本質」は万国共通。

フィリピン人等の技能実習生を受け入れている施設では、彼らの信仰を尊重し、施設内に礼拝室を設けるなどの配慮を行うことで、精神的な安定と良好な就労環境を維持している例が紹介された。

貧困層の多い国では医師が不足し、薬剤師が地域医療の主役を担っている現状などの報告があった。こうした背景を知ることは、来日した外国人の期待やニーズを理解する助けとなる。

日本特有の「本音と建前」を理解することの難しさや、馴染みのない食文化(刺身など)であっても「せっかく出されたから」と無理をして食べてしまうような、日本的な気遣いから生じる誤解や苦労の事例が紹介された。

災害時に最も有効なのは、日頃からの横の繋がり。特別な支援制度を整える以前に、普段から近所付き合いがあれば、いざという時に「あそこの外国人を助けに行こう」と自然に手が差し伸べられ、安全な場所へ導くことができる。


【指定発言】

⚫︎社会福祉法人六心会 介護老人保健施設ここちの郷 副施設長 愛須 和美さん

 本日は貴重なお話を色々聞かせていただきまして大変勉強になりました。 私どもは今法人として中国人の方10名、フィリピンの方6名、計16名の受け入れを行っております。7月1日からまた6名いらっしゃり計22名となります。大体6年、7年ぐらい前から継続して受け入れを行ってきました。

 その中で私がお話を聞いて感じたことは、ハード面とソフト面、両方のサポートがいるということです。ハード面としては、行政や色んなサポートを受けられるというシステムが構築されていることです。ただそれだけでは本当のサポートとはなりませんので、ソフト面のサポート、例えば困りごとがありそうだなと思ったら、同僚が声をかけられる環境であるとか、お母さん的な存在の職員がいることで、安心して務められるっていうことがあるのかなと思いました。

 あともう1点、外国ということでバイアスをかけないということも非常に重要かなと思いました。外国人だからとか、何々の方だからというよりも、私が6年7年付き合って感じることは、やはり最後は人なんですね。日本人も外国人も全く変わらなくて、その人一人一人のパーソナリティが大きい部分もありますので、バイアスをかけずに、きちんと人間として向き合うということが非常に大事かなと思っております。

 今後も共生社会ということで、働いていただく方だけではなく、私たちが地域の社会資源として、地域の方や外国人の方とどのように関係性を構築して、より良い住みやすい社会を作っていけるのかなということで、地域担当の職員もおりますので、力を活かしながら協力していきたいなと思います。今日はありがとうございました。


⚫︎東近江市五個荘木流町(東近江市市議会議員)  大橋  保治さん

 皆さんこんばんは。貴重なお時間をいただきましてありがとうございます。やっと私の時間がやってまいりました。私は五個荘木流町に住んでいるんですけども、大体人口は約210人で70軒ぐらいの集落なんですけれども、令和元年ぐらいにブラジルの方が空き家を改修して引っ越してこられました。ご主人と奥さんと子供さん5人家族です。

 令和4年に私がそこの区長をしている時に、7月の自治会の清掃で草刈りがあったんですけども、出席されなかったので、自治会長が不参加料集めに行くので、組長さんとして一緒に来てくれないかということで、一緒についていきました。

 行きましたら「なんでそんなお金を払わなきゃいけないんですか」という話になりまして。 その時の世間話の中でですね、公園の草刈りもしていないことや、五個荘の中央公園の方が綺麗やないかとか、家の周りに街灯がないので非常に夜危ないんですよとか、「朝私は5時に出て、三重県まで仕事に行って帰りが毎日夜9時になるので、日曜日しか休みがないのに、なんでそんな場所へ行かなきゃいけないんですか」という話を1時間ぐらい玄関でしておりまして。

 ふと玄関先に大きいバーベキューコンロが見えましたので、「バーベキューはよくされるんですか?」という風に聞きましたら「するよ」ということでありましたので、「今度一度しませんか」ということで提案しましたら「しましょうよ」という話になりまして。 不参加料の話をしに行ったのに、バーベキューの日程を決めて帰ってきたなということになりまして。それから毎年自宅に行きバーベキューすることになりました。

 令和5年からですね、8月に行う地元の夏祭りに来られるようになりましたし、10月に毎年レクリエーションの大会をしておるんですけども、そこも家族で参加してくれるようになりました。 昨年度の夏祭りは、その家族の方はもちろん来ていただいたんですけども、ブラジルの友達の方も一緒に来るようになりまして、本当に身近な国際交流と言いますか、自治会の中で一緒に取り組めているというのは非常に大きい成果かなというように思っております。以上です。ありがとうございました。


【連絡事項】

第225回 三方よし研究会 2026年7月18日(土)16時~18

内容:「子三方よし研究会」の取組み報告

当番:実行委員会