【活動報告】第225回 三方よし研究会
テーマ「子三方よし研究会で何ができるだろう?」
令和8年7月18日、第225回「三方よし研究会」を、東近江市の中野ヴィレッジハウスとオンラインをつないだハイブリッド形式で開催しました。
今回のテーマは、「子三方よし研究会で何ができるだろう?」。
東近江圏域の各地域で、医療・介護・福祉の専門職や地域住民がつながり、地域に根ざした活動を続けている4つの「子三方よし研究会」から、それぞれの歩みや活動内容、成果、今後の課題についてご報告いただきました。
リレートークの後には、当初予定していたグループワークの枠組みを超え、会場とオンラインの参加者が一つになって語り合う「車座」での対話を実施しました。
医療・介護・福祉の連携にとどまらず、地域住民、行政、商店、企業など、地域に存在する多様な人や資源とどのようにつながり、暮らしを支えていくのか。発表者や参加者の皆さまから、これまでの実践に基づく熱い思いや、これからの地域づくりにつながる多くの意見が寄せられました。
リレートーク
地域で育つ「子三方よし研究会」
1.チーム永源寺
はじめに、東近江市永源寺診療所の花戸貴司先生から、「チーム永源寺」の活動についてご報告いただきました。
花戸先生は、2000年に永源寺へ赴任されてから、地域医療に携わってこられた歩みを振り返りながら、医療と介護の連携だけでは地域の暮らしを支えきれないことをお話しされました。
「医療と介護の連携は、地域を支える『共助』のごく一部分に過ぎません。大切なのは、自助・互助・共助・公助の間に『隙間をつくらない活動』なんです。」
チーム永源寺では、医師や看護師、薬剤師、栄養士、ケアマネジャーといった医療・介護の専門職だけでなく、手話通訳者や里山活動家をはじめ、地域で暮らし、活動している多様な人たちとの横のつながりを大切にしてこられました。
花戸先生は、病気や疾患を中心に支援を考える「縦の軸」と、地域やコミュニティーを中心に暮らしを考える「横の軸」をつなぐことが重要であると説明されました。
一人の人を病気や障害だけで捉えるのではなく、その人がどのような地域で、誰とつながり、どのような暮らしを続けてきたのかを考える。そのためには、医療・介護の専門職だけではなく、地域に関わる多様な人たちとの関係が欠かせないと語られました。
また、活動を長く続けるうえで大切にしていることとして、花戸先生は、
「医者が偉そうにしないこと。」
と率直に話されました。
専門職が一方的に教えたり、活動を主導したりするのではなく、地域の人たちと同じ目線で関わり、ともに楽しむ姿勢が重要であるといいます。
さらに、外側に客観的な基準がある「サイエンス」だけでなく、自分たちの内側にある、
「楽しい」
「面白い」
「美味しい」
といった感覚を大切にする「アート」の尺度についてもお話しされました。
地域の人たちと「楽しい」「面白い」と感じられる価値観を共有することが、活動を無理なく継続し、20年以上にわたって地域のつながりを育んでこられた源泉であると語られました。
2.子三方よし湖東地区
東近江市地域包括支援センター 金子尚美さん
続いて、東近江市地域包括支援センターの金子尚美さんから、「子三方よし湖東地区」の活動をご報告いただきました。
子三方よし湖東地区は、2016年から活動を始め、10年以上にわたって継続しており、現在は第39回を数えています。
開催時期を毎年6月、9月、12月、3月の年4回に固定し、毎回20名前後の多職種が参加していることが紹介されました。
研究会では、オーラルフレイルや心不全をテーマとした学習、実際の支援事例を通じた事例検討など、その時々の地域課題や参加者の関心に応じて、多彩な内容に取り組んでいます。
金子さんは、活動を継続してきた最も大きな成果として、参加者がお互いの専門性だけでなく、人柄や考え方についても理解できるようになったことを挙げられました。
日頃から顔を合わせて学び、意見を交わすことで、職種や所属機関を超えた「顔の見える関係」が築かれ、困ったときに気軽に相談し合える関係へと発展してきたといいます。
具体的な実践として、「小多機での看取り」や「心不全の地域連携」などについて報告されました。
普段から地域の専門職同士がつながっているからこそ、支援が必要になった際にも、職種間で速やかに相談し、役割を分担しながら対応することができたことが紹介されました。
単に名刺や連絡先を知っているだけではなく、お互いの専門性や人柄を理解したうえで関係を築いておくことが、実際の支援場面において大きな力になることを、具体的な事例を通してお話しいただきました。
3.てんびん倶楽部(五個荘)
社会福祉法人 六心会 奥村昭さん
続いて、社会福祉法人六心会の奥村昭さんから、五個荘地域で活動する「てんびん倶楽部」についてご報告いただきました。
「てんびん倶楽部」という名称は、近江商人を象徴する天秤棒にちなんで名付けられました。
2015年の発足以来、
「焦らず、ゆるく、つながる」
ことを大切にしながら、地域に根ざした活動を続けています。
てんびん倶楽部の大きな特徴の一つが、専門職が地域のサロンなどへ出向いて行う「出前講座」です。
歯科医師が住民の前で口腔ケアを実演したり、福祉職が認知症について分かりやすく説明したりするなど、専門職が地域へ出向き、住民と直接顔を合わせる機会を大切にしてきました。
こうした活動を通して、地域住民に医療や介護、福祉を身近に感じてもらうとともに、専門職にとっても、地域で暮らす人たちの声や生活の実情に触れる機会となっています。
奥村さんは、コロナ禍においても対面での開催を大切にしてきた理由について、
「メンバー全員の近況報告を通じて、地域の課題、いわゆるシャドーワークを共有する時間を大切にしたかったからです。」
と語られました。
特別なテーマを設けなくても、参加者がそれぞれの近況や、日々の業務、地域で気になっていることを話すことで、制度や会議の場には表れにくい地域の困りごとが見えてきます。
現在では民生委員もメンバーに加わり、地域住民の身近な相談や困りごとを拾い上げ、必要な人や機関につなぐことができる、心強いプラットフォームへと成長しています。
4.ぼちぼちねっと竜王
小規模多機能 山かがみ 山下京子さん
リレートークの最後は、小規模多機能山かがみの山下京子さんから、「ぼちぼちねっと竜王」の活動についてご報告いただきました。
ぼちぼちねっと竜王は、2013年に発足しました。
活動を始めた背景には、
「在宅生活を支えるには、病院だけでは限界がある」
「地域で暮らし続けるためには、多職種によるチームが必要である」
という思いがあったといいます。
活動では、参加者が小さなグループに分かれて意見を交わす、スモールグループでのディスカッションを大切にしてきました。
少人数で話し合いを重ねる中で、それまで電話や書面上では名前や声を知っていても、実際には顔が一致していなかった人たちが、次第にお互いを知り、一つのチームとしてつながっていったと振り返られました。
「名前と声は知っていたけれど、顔が一致していなかった人たちが、一つのチームになっていきました。」
コロナ禍では活動を一時休止せざるを得ませんでしたが、現在は会場とオンラインを組み合わせたハイブリッド形式で活動を再開されています。
一方で、ハイブリッド形式になったことで会場参加者が減少するなど、新たな課題も生じていることが報告されました。
それでも山下さんは、
「ぼちぼち、少しずつでも、多職種で学び合う場を守り続けたい。」
と、活動を継続する強い思いを語られました。
車座での対話
地域から「商い」まで、三方よしの輪を広げる
4つの子三方よし研究会からのリレートーク終了後は、参加者同士による意見交換を行いました。
当初はグループに分かれて話し合う予定でしたが、花戸貴司先生から、
「せっかく集まったのだから、みんなで顔を見ながら話しましょう。」
との提案があり、会場参加者全員が輪になり、オンライン参加者も交えた「車座」での対話となりました。
それぞれの地域で活動を続ける中で感じている悩みや工夫、医療・介護以外の人たちとの連携、独居高齢者や身寄りのない方への支援など、幅広いテーマについて意見が交わされました。
「集まりやすさ」への工夫
はじめに、研究会を開催する曜日や時間帯について意見が交わされました。
花戸貴司先生からは、チーム永源寺では、あえて平日の午後1時30分から開催していることが紹介されました。
「私たちは、あえて平日の午後1時半に開催しています。そうすることで、行政の保健師さんも『業務』として参加しやすくなるんです。」
地域活動というと夜間や休日に開催されることも多くありますが、行政職員や専門職にとっては、勤務時間内であれば業務として参加しやすい場合があります。
ケアプランセンター加楽の楠神からも、
「ケアマネジャーにとっても、交代制で参加できる日中開催は非常にありがたいという声を聞いています。」
と、日中開催のメリットについてお話ししました。
オンラインで参加された多田さんからも、
「つながりをつくることが目的であれば、日中の方が、より多様な人を巻き込めるのではないかと感じました。」
との意見がありました。
参加しやすい場をつくるためには、夜間や休日に固定するのではなく、参加してほしい人の立場や働き方を考えながら、開催時間を工夫することが大切であると共有されました。
地域の枠を超えた悩みと、プラットフォームの意義
栄養士会の澤谷さんからは、近江八幡地域でも多職種や地域住民がつながる場をつくろうとしているものの、
「誰を中心に進めるのか」
「どのように次の世代へつないでいくのか」
という点に悩んでいることが紹介されました。
「近江八幡でもつながりをつくろうとしていますが、誰をボスにするか、どうやって次世代につなぐか、突破口を悩んでいます。」
これに対して、社会福祉法人六心会の奥村昭さんは、特別なテーマや明確な結論を求めなくても、集まれる場を継続して開いておくことに意味があると話されました。
「何か特別なテーマがなくても、『ひたすらその場を開き続けること』が大事です。課題をそこに放り込んでおくことで、思わぬところでつながりが生まれる。それがプラットフォームの役割だと思っています。」
誰か一人のリーダーがすべてを背負うのではなく、地域の人たちが課題や気づきを持ち寄ることのできる場を開き続ける。その中で、課題と人、活動と活動が自然につながっていくことが、地域におけるプラットフォームの大切な役割であると語られました。
大学教授の髙崎さんからは、栄養の重要性を伝え、栄養士が地域のチームの中でどのように力を発揮できるのかについて、日頃から難しさを感じているとの発言がありました。
「栄養の重要性を訴えても、チームの中でどう活躍するかは難しい問題です。今日ここで、同じように悩む仲間がいると分かったことが一番の収穫です。」
課題をすぐに解決できなくても、同じ悩みを持つ人と出会い、思いを共有できること自体が、次の一歩につながることを感じる意見交換となりました。
医療・介護を超えた「地域ビジネス」との連携
対話の中では、医療・介護・福祉の専門職だけではなく、地域で商売や仕事をしている人たちとの連携についても意見が交わされました。
花戸貴司先生からは、
「医療・介護だけでなく、コンビニや銀行、道路工事をしているような、『ビジネス』として地域に根ざしている人たちと、どうつながれるかが、これからの鍵になるのではないでしょうか。」
との提案がありました。
地域の中には、日々の仕事を通じて高齢者や住民と接している人がたくさんいます。
医療・介護の専門職よりも、銀行や郵便局、商店、コンビニ、美容室などの方が、住民の日常の変化に早く気づくこともあります。
宇都宮さんからは、
「最近は、銀行のビルで研究会を開くなどの動きもあります。司法書士さんがACPに関わる事例も増えていますね。」
と、金融機関や司法関係者との連携について紹介されました。
花戸先生からは、銀行の窓口職員が認知症サポーター養成講座を受講していることも多いとして、
「振り込み詐欺を防ぐだけでなく、『いつもと様子が違う』『何かおかしい』という気づきを専門職につないでくれれば、三方よしの仕組みになります。」
と話されました。
地域包括支援センターの河島さんからは、
「平和堂さんなどの量販店でも、数百人単位で認知症サポーター養成講座を受けてくださっています。」
と、地域の量販店における取り組みが紹介されました。
楠神からも、地域における郵便局との連携について報告しました。
「私の地域では、郵便局長さんが会議に来てくださっています。夏場には、高齢者の方が休憩できる場所として郵便局を開放してくださるなど、心強い存在になっています。」
さらに、栄養士会の澤谷さんからは、近江八幡地域における商店の取り組みについてお話しいただきました。
「近江八幡では、電気屋さんが電球交換の際にLED補助金の申請をサポートしたり、美容室が送迎を含めた見守りをしたりと、『五つ目の商助』とも呼べるような商いの力が生まれています。」
自助・互助・共助・公助だけでなく、地域に根ざした「商い」が暮らしを支える力となっていることが共有されました。
医療・介護の制度やサービスだけで地域生活を支えるのではなく、日常的に地域住民と接している企業や商店ともつながることで、見守りや早期発見、生活支援の可能性が大きく広がることを感じる対話となりました。
意思決定支援と「未来ノート」
独居高齢者や身寄りのない方が増える中で、本人が住み慣れた地域でどのように暮らし続けるのか、また、自分のこれからの人生についてどのように考え、意思を伝えていくのかについても意見が交わされました。
花戸貴司先生は、地域で暮らしていた独居の方が、支援上の不安などから、サービス付き高齢者向け住宅などの「箱」へ移っていく現状について、次のように話されました。
「最近は独居の方が増え、地域からサ高住などの『箱』へと吸い込まれてしまう現象があります。そうなると、地域での生活から切り離されてしまう。これは切ないことです。」
安全や安心を求めて住まいを移すことが必要な場合もありますが、本人が長年築いてきた地域とのつながりや役割が失われてしまうことへの課題が提起されました。
宇都宮さんからは、
「病院からお家に帰る代わりに、施設を選択してしまうことがあります。自分のこれからの人生をどう過ごしたいか、市民がアンテナを張って考える必要があります。」
との発言がありました。
医療・介護が必要になってから急いで選択するのではなく、元気なうちから自分の暮らし方や人生について考え、家族や支援者と話し合っておくことの重要性が共有されました。
地域包括支援センターの川島さんからは、そのためのツールとして「未来ノート」が紹介されました。
「名称にも思いを込めて、『未来ノート』としています。死の準備をするためのものではありません。これまでの人生を振り返り、これからの人生のプランを前向きに立てるためのツールです。」
未来ノートは、人生の最終段階だけを考えるものではなく、自分がこれまでどのように生きてきたのか、何を大切にしているのか、これからどのような暮らしを送りたいのかを考えるためのものです。
河島さんからは、
「身寄りのない方の支援など、これからの多死社会における意思決定支援を、医療・介護の連携の中で話し合っていきたいです。」
との思いが語られました。
本人の意思を中心に置きながら、医療・介護・福祉の専門職、地域住民、関係機関がどのように支え合うのか。今後、地域全体で考えていく必要のある重要なテーマとして共有されました。
小鳥輝男先生による総括
研究会の最後には、三方よし研究会実行委員会の小鳥輝男先生から、今回のリレートークと車座での対話を振り返り、総括のお言葉をいただきました。
小鳥先生は、三方よし研究会が始まった当初から、
「具体的な取り組みは、それぞれの地域の『子三方よし研究会』で実践していこう」
という考えを大切にしてきたことをお話しされました。
「三方よし研究会の原点は、『具体的なことは各地域の「子」でやろう』ということでした。」
そして、活動を続けるうえでは、すぐに成果を求めたり、形を固定したりするのではなく、
「焦らず、ゆっくり」
進めることが大切であると語られました。
「当時から大切にしてきたのは、『焦らずゆっくり』、そして『規則に縛られず、必要に応じて形を変えていく』という柔軟さです。」
地域によって、人口規模も資源も、参加する人も、抱えている課題も異なります。
そのため、同じ方法をすべての地域に当てはめるのではなく、それぞれの地域に合った形に変えながら活動を続けることが重要です。
小鳥先生からは、各地域で立派な活動が育っていることへの評価とともに、
「今は立派な活動が育っていますが、これからはさらに地域のあらゆる資源を巻き込んで、この輪を広げていきましょう。」
との力強いメッセージをいただきました。
終わりに
今回の研究会では、「チーム永源寺」「子三方よし湖東地区」「てんびん倶楽部」「ぼちぼちねっと竜王」の4つの活動から、それぞれの地域に合った方法で、人と人とのつながりを育ててきた歩みをご報告いただきました。
活動の形や開催方法は異なっていても、共通していたのは、無理なく集まり続けること、顔の見える関係を築くこと、そして、地域で生まれた困りごとをみんなで持ち寄ることの大切さです。
また、医療・介護・福祉の専門職だけでなく、行政、民生委員、銀行、郵便局、量販店、電気店、美容室など、地域で暮らしや商いに関わる多様な人たちも、地域を支える大切な仲間であることを再確認しました。
地域によって強みも課題も異なります。
しかし、お互いの活動を知り、悩みや工夫を共有し、対話を重ねることで、新たな気づきやつながりが生まれます。
「焦らず、ゆっくり」、そして、形や規則に縛られることなく、地域の実情に合わせて活動を育てていく。
三方よし研究会の原点と、子三方よし研究会が果たしている役割を改めて確認する、充実した研究会となりました。
次回のご案内
第226回 三方よし研究会
日時
令和8年8月20日(木)18時30分~20時30分
開催方法
オンライン開催
当番
八幡蒲生郡薬剤師会・東近江薬剤師会
次回の研究会でも、多くの皆さまとお会いできることを楽しみにしております。
花戸先生より
三方よし研究会の活動は、皆さまからの温かいご寄付とご支援によって支えられています。
PayPayなどによるご支援も受け付けておりますので、今後も地域のつながりを育み、誰もが安心して暮らし続けられる地域づくりを進めていくため、引き続きご支援とご協力をよろしくお願いいたします。

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