本日、第226回の三方よし研究会が開催されましたので、ここに報告いたします。
◇日時:2026年8月20日(木) 18:30~20:30
◇会場:東近江地域医療支援センター/WEB開催(ZOOM開催)
◇当番:八幡蒲生薬剤師会・東近江薬剤師会
全体進行:小串輝男先生
【ゴール】
○多くの薬を服用している方について、薬を減らせる可能性を多職種で考えられるようになる
○薬を飲み始めた後に体調や様子の変化があれば、薬の副作用の可能性を考えられるようになる
進行:薬剤師会 満田久和先生
【30分学習会】
「その症状、本当に年齢のせい?〜ポリファーマシーと高コリン負荷を多職種で考える」
スマート調剤薬局 上野克彦先生
1. 高齢者が呈する不調と薬の関連
・高齢者はふらつき、転倒、尿閉、せん妄、口の渇き、認知機能低下など、様々な身体的・精神的症状を呈することがある。
・これらは「歳だから仕方がない」「老化現象だ」と片付けられてしまいがちだが、実は服用している薬が原因(副作用)となっているケースが少なくない。
・すべての症状が薬のせいというわけではないが、患者や利用者の変化に対して「もしかしたら薬の影響かもしれない」という疑いの視点を持つことが、関わり方を変える第一歩となる。
2. ポリファーマシーの本質と多剤処方の背景
・ポリファーマシーと聞くと、単に「薬が10種類以上処方されているなど、数が多い状態」をイメージしがちだが、本質は数だけでは決まらない。
・重要なのは「その薬によって、患者にふらつき、眠気、便秘、QOL(生活の質)の低下などの不利益(有害事象)が生じているかどうか」であり、不利益が生じている状態をポリファーマシーと捉える。
・高齢者は複数の医療機関(内科、整形外科など)を並行して受診し、それぞれ異なる薬局で薬を受け取っているケースが多々ある。
・それぞれの医師は必要な薬を適切に処方しているものの、「患者の服薬全体を俯瞰して管理できる存在がいない」ことが問題の根本にある。
・これに対処するため、お薬手帳の共有や、医療・介護従事者による多職種連携が不可欠。
3. 有害な薬の連鎖を生む「処方カスケード」
・薬の副作用として現れた症状を「新たな病気」と誤解し、それを治療するためにさらに新しい薬が追加処方され、薬が芋づる式に増えていく悪循環を指す。
・具体的な連鎖のモデル:①高血圧の薬(ノルバスクなど)を飲み始めた患者が、足のむくみなどの不調を訴える。②むくみを解消するために、利尿剤が追加処方される。③利尿剤によって尿量が増え、トイレが間に合わなくなるため、今度は尿失禁を改善する薬(トビエスなどの過活動膀胱治療薬)が処方される。④その薬の強い副作用(抗コリン作用)により、今度は腸の動きが止まって便秘になる。⑤便秘を解消するために、便を柔らかくする下剤(マグミットなど)がさらに追加される。などなど
・このように連鎖した処方の途中で、「最初の症状は本当にその病気だったのか」と立ち止まって疑う姿勢が極めて重要。原因となっている薬を変更・中止することで、不要な薬の追加(処方カスケード)を防ぐことができる。
4. 高齢者において薬の副作用が起こりやすい4つの身体的理由
・高齢者は、若い人であれば問題にならないような薬や服用量であっても、加齢に伴う身体的な変化によって副作用が著しく出やすくなる。
① 腎機能の低下:薬を体外へ排出する役割を持つ腎臓の機能が低下するため、薬が体内に残りやすくなる。
② 肝機能の低下:薬を代謝・分解する肝臓の機能が低下することで、薬の作用が長く持続してしまう。
③ 脳のバリア機能(血液脳関門)の低下:脳を守るバリア機能が低下するため、若い人では脳に移行しないような薬成分であっても脳へ届きやすくなり、ふらつきや認知機能低下を招く。
④ 薬に対する感受性の亢進:身体の薬に対する反応性が高くなっており、同じ量を服用していても若年者より過剰に作用が現れやすくなる。
5. 「抗コリン作用」の概要と見落とされがちな該当薬
・体内には、腸や膀胱を動かす、唾液を出す、認知機能を保つといった役割を担う「アセチルコリン」という物質がある。「抗コリン薬」は、このアセチルコリンの働きをブロックしてしまうため、逆の作用として「口渇(口の渇き)」「便秘」「尿閉(尿が出にくい)」「認知機能低下」が副作用として現れる。
・本来の目的として作用を利用する薬:過活動膀胱治療薬(トビエス等)、胃腸薬(スコポラミン等)、パーキンソン病治療薬(アーテン等)。
・副次的に抗コリン作用を併せ持っている薬:睡眠薬、抗うつ薬、抗てんかん薬(カルバマゼピン)、めまい薬(セファドール等)、抗アレルギー薬(ナウゼリンなど)、風邪の配合剤(PL配合顆粒、PA配合錠など)、市販薬(OTC医薬品)。
・特に、風邪の配合剤やアレルギー薬、市販の乗り物酔い止めなどは医療者・患者ともに見落としがちであり、注意が必要。
6. 「抗コリン薬リスクスケール」の特徴と正しい活用法
・リスクスケール(ARSなど)とは、患者が服用している個々の薬が持つ抗コリン作用の強さを「点数(スコア)」として数値化し、患者全体の「高コリン負荷」を見える化するツール。日本老年医学会のホームページからダウンロードして使用できる。
・ただスコアは目安であり、単純な掛け算ではない。スコア3の薬がスコア1の薬の3倍危険である、といった定量的なエビデンスは現時点では十分ではない。
・また個々の「薬剤」に対して設定されたスコアであるため、服用量が少量だから安心、多量だから高リスクという仕組みにはなっていない。
・このスケールは「その薬はダメだ」と判断するためのものではなく、患者全体を見ながら「抗コリン負荷を少しでも減らせないか」を多職種で前向きに検討するための支援ツールと言える。
・薬をやめる際には、自己判断で急に中止するのではなく、薬の特性を踏まえ、医師や薬剤師の指導のもとで徐々に減量していく必要がある。
・服用の期間が長くなるほど副作用のリスクは増加するため、「いつから飲み続けているか」という投与期間も極めて重要な視点。
7. 多職種における「気づき」と「情報共有」の役割
・この学習会で最も重要なのは「スケールの点数を正しく計算できるようになること」ではない、一番大切なのは、何らかの不調に対し「この症状は薬が関係しているかもしれない」と最初に気づくこと。
・各職種に期待されるアクションとして、次のことが挙げられる。
・看護師・介護職であれば、最も長く患者・利用者と接する立場として、「最近ぼーっとしている」「歩き方が危なっかしく、ふらつきや転倒が増えた」「口が渇いて食事が進まない」「便秘が続いている」といった生活上の小さなサインや変化にいち早く気づく役割を担う。
・ケアマネジャーは、お薬手帳や自宅での生活状況、家族からの「物忘れが気になる」といった情報を集約し、関係者に繋ぐ役割がある。
・医師・薬剤師は、多職種から寄せられた「気づき」の情報をトリガーとし、抗コリン薬リスクスケール等を活用して処方内容を検討し、より安全な薬への切り替えや減薬・適正化を具体的に実行する役割がある。
・まとめとして、現場の第一線にいる介護職や看護師の気づきを、多職種で共有し合うことによって初めて、患者にとってより安全な薬物療法と生活の質の維持につなげることができる。
【症例報告】
「ポリファーマシーを起こしやすい薬剤の紹介」
スマート調剤薬局 上野克彦先生
1. ポリファーマシー(漫然とした長期処方)になりやすい薬剤
日常の医療現場で非常に頻繁に使われており、明確な見直しがないまま長期処方に至りやすい代表的な薬物治療の系統。
・NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬):セレコシブ(セレコックス)などの消炎鎮痛薬で、現場で非常に広く使われている。
・PPI(プロトンポンプ阻害薬/胃薬):ボノプラザン(タケキャブ)やランソプラゾールなどが非常によく処方されている。服用をやめると胸焼け(胃焼け)が再発するため、維持療法として処方だらだらと長引きやすいのが特徴。
・H2ブロッカー(胃薬):現在は主にファモチジンが使われているが、PPIと同様に漫然と長く使われがち。
・ベンゾジアゼピン系(安定剤・抗不安薬):種類が非常に多く、多くの患者に処方されている。医療機関側でも、一度処方が始まると長期処方に至ってしまうケースが多く見られる。
・抗コリン薬:デシケアやソピエスなどの尿トラブル改善薬が含まれ、これらも漫然と長く使い続けてしまいやすい代表例。
2. ポリファーマシーを脱出するための具体的な対策
重複処方や副作用(有害事象)を防ぎ、減薬・適正化を進めるためのアプローチ。
・お薬手帳の1冊化:薬の重複や飲み合わせを正しく管理するため、お薬手帳を必ず1冊にまとめることが最も重要。
・「かかりつけ」の決定:患者が自分自身で信頼できる「かかりつけ医」「かかりつけ薬剤師」を決めることが、ポリファーマシーを脱出する最大の手段。
・抗コリン薬リスクスケールを用いた点数化:有害事象が出た際、スケールを用いて薬の負荷を点数化し、点数を減らせるような代替薬の選択を医師や薬剤師を交えて検討する。
・定期的な処方の見直し:本当に必要な薬であるか、状態の変化に合わせて定期的に評価し直す習慣が求められる。
3. 残薬問題へのアプローチと患者向け啓発ツール
家庭に余っている薬の整理や、患者自身に気づきを促すための具体的なツールの紹介。
・ブラウンバック(残薬回収)運動の推進:1990年代にアメリカで始まった、余った薬を茶色の袋に入れて薬局へ持ってきてもらう運動で、日本や滋賀県でも取り組まれている。
・滋賀県医師会による「ブルーの袋」の配布:家庭で余っている薬を整理して持ってきてもらうため、「青い袋」とリーフレットを配布し、残薬整理の啓発を行っている。
・患者向けリーフレット「あなた、薬飲んでますか」:日本製薬工業協会が作成した、高齢者で薬が増える理由や副作用について分かりやすく伝える冊子。「気分の落ち込み」「もの忘れ」「めまい」「ふらつき」「尿失禁」などの副作用が疑われる症状が出た際、自己判断で急に薬を止めず、まずはかかりつけ医や薬剤師に相談して徐々に減らすよう促す。
【グループワーク】
テーマ『追加症状を薬の副作用として考えてみる』
〜視点〜
○薬を始めた時期と症状が現れた時期を、医師や薬剤師など多職種で共有できていますか?
○新しい症状が現れたとき、薬の副作用かもしれないと相談できる薬剤師さんはいますか?
【発表】
<1グループ>
・メンバー構成は、医師、保健師、薬剤師、看護師、ケアマネジャーが参加。
・講義で示されたポリファーマシーや抗コリン作用の現状を踏まえ、多くのメンバーが「薬の調整が必要である」という共通の認識を持っていた。
・医師からは「薬剤師からもっと意見を発信してほしい」という要望があり、一方で「医師側からの働きかけやアプローチがほしい」という意見も交わされた。
・この研究会をきっかけに、職種を超えてお互いに積極的なアプローチや意見交換ができる良好な関係を築いていきたい。
<2グループ>
・ポリファーマシー解消には、多職種が気兼ねなく意見交換できる関係作りが最も重要。
・マッサージや早寝早起き、食物繊維の多い食事など、生活習慣の改善を通じて健康になり、実際に家族の睡眠薬や便秘薬を減らせた実体験が紹介された。
・残薬自体を問題視するのではなく、なぜ残薬が生じるのかという背景や原因を患者と一緒に前向きに考える姿勢が大切。
・在宅訪問診療の開始や施設入所のタイミングは、多職種がチームとして連携し、薬を一掃・整理する最大のチャンスとなる。
・紙のお薬手帳や地域共通の「在宅療養手帳」などのノートを活用し、多職種間で情報を1箇所に見える化することが理想的ではないか。
<3グループ(会場)>
・胃薬(ドグマチール)の中止でせん妄が治まった例や、精神科と整形外科の重複処方を整理して妄想や抵抗が治まった事例を共有した。
・長期服用で精神症状や抗コリン作用などの有害事象が出現するリスクを指摘し、多職種の気づきによる改善の可能性を話し合った。
・入院時の持参薬チェック体制を評価。さらに医師の訪問診療時に薬剤師やケアマネジャーが同時同行することで、時間の節約や多職種間でのスムーズな情報共有が図れる。
【指定発言】
⚫︎東近江薬剤師会 カギヤ薬局 小島聡子先生
久しぶりに参加させてもらいましたが、やはり多職種が連携して、1つの話題について話し合えるこの『三方よし研究会』という場がとても素晴らしいことだなと改めて感じました。
私は薬屋なので『薬を売ってなんぼ』という考えはあるかもわかりませんけれども、やはり体の負担を考えると、お薬に少し助けてもらいつつ、『社会的処方』と言いますか、さきほど森永先生が言われたような生活、いろんな『集いの場』に出ていくという、社会的処方ができるお医者さんが増えていくといいなとも思いました。
【連絡事項】
第227回 三方よし研究会 2026年9月17日(木)18:30~20:30
当番:近江八幡市立総合医療センター
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
また次回もよろしくお願いいたします。
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