今回もZOOM-WEB開催となりました恒例の三方よし研究会。第158回目はコロナ特集としまして、実際にコロナ禍を体験されたまたは取材された経験者の生の声を聞き、質疑応答を経てそれぞれに感じたものを持ち帰って頂く会となりました。
報道は毎日されども、なかなか現場の状況を体験者から聞かせて頂き、共有する機会はないもの。その意味で今回は(も)とても貴重な(私はある意味身につまされる部分も多々あった)会となりました。
日時 令和3年2月18日(木)18:30〜20:30
当番 ヴォーリズ記念病院(WEB開催)
ゴール ◯コロナ禍における他地域取り組みを学ぶ
◯ニューノーマルについて理解を深める
◯東近江圏域での取り組みを知る
【情報提供】
●地域再生計画大賞(地域の未来とブロック賞)受賞に関して 小串輝男先生
・三方よし研究会が地域再生大賞のブロック賞に選ばれた。・元首相の発言の話題がTVで大きく報道されたが、会議とはなんぞや?目的と時間を決めてピシッと終わる、の視点が入っていない。発言者は長くならぬようにキッチリまとめたうえで話す、これが三方よしの初期方針。時間厳守、相互利他の精神。
●東近江圏域介護職員初任者研修に関して 楠神渉さん
・今回も皆さんのご協力のおかげで、131時間の講義課程を経て、無事に全員が卒業することができ、2/14に小串会長より修了証を授与する運びとなった。
【司会】
ヴォーリズ記念病院 加藤さん
【挨拶】
ヴォーリズ記念病院 事務長 澤谷さん
・地域再生大賞ブロック賞受賞、おめでとうございます。当院でもリニューアルオープンに向けて3/15にいよいよ着工の運びとなった。新たな地域貢献の第一歩としたい。令和4年11/1にオープンの予定です。本来ならば院長が挨拶すべき中代理で申し訳ありませんが、本日の盛会を祈念いたします。【60分学習会】
「コロナ禍で何が起こったか、何が起こっているのか」
●静明館診療所 医師 大友宣さんよりの報告
・まずはじめに4月。茨戸アカシアハイツ老健施設にて4/25入所者が入院、PCR陽性と判明したことがきっかけ。
・多くの介護職員、看護職員が出勤できなくなった。理由は感染や濃厚接触のほか家族の反対など。職員11名での対応を余儀なくされた。
・入居者95名のうち感染者71名、死亡者17名、うち施設内死亡が12名。数時間から数日以内に病状が進行してパタパタと亡くなった印象。
・このアカシアハイツからの教訓は、1.早期の対策本部設置が必要、2.介護崩壊対策が早期に必要、3.在宅医=多職種連携としての要である、ということになる。
・次に9月。グループホームツクイにて9/23朝に夜間発熱者の報告あり、これまで早期対応が重要と話してきていた経緯もありすぐにPCR検査を実施し隔離とゾーニングを指示した。24日には陽性と判明、発熱者は7名となり全入居者と全職員にPCR検査を実施した。
・感染した入居者には2種類あった。1.認知症のためグループホーム内を歩き回っておられた方。2.認知症のため、介護のためには体位交換を含む広範な身体接触が必要な方。1は対策が難しい。2は適切な個人防護具と標準予防策で予防できる。つまり2の対策をすれば大きなクラスターになることを防ぐことができる。
・ここでのまとめは1.感染の発見が早かった、2.初動が早かった、3.感染がコントロールされた、4.介護崩壊しなかった、5.対応が細やかで十分だった、といえる。
・次に11月。特養ドリームハイツにて11/6介護職員1名の感染が判明したことがきっかけ。職員は25名感染したが、13名の応援職員があり、以前クラスターになった経験を持つ派遣職員、海外で医療支援していた看護職員などで非常に助けになった。
・入院は11月中旬は発熱や低酸素血症が多く(感染フェーズ)、11月下旬になると褥瘡や二次感染など廃用に伴う問題が多くなっていった(廃用フェーズ)。
・高齢者施設でのクラスターでは死亡率が非常に高いが、死因としては1.新型コロナウイルス肺炎、2.血栓症、が考えられる。1は酸素投与、デカドロン筋注で対応、2はADL維持、体操、水分摂取、補液で対応、結果死亡者は11%に。
・ここでのまとめは、1.経験者は応援しやすい、2.肺炎治療は酸素とデカドロン、3.血栓予防が重要、4.施設クラスターにはフェーズがある、とのことだった。
・3つの事例から、1.早期発見と早期対応、2.丁寧な対応、3.コロナ対応は自助互助共助公助の地域包括ケア、4.治療、の4つが大事。
・施設波及は避けられないしずっと続く。発生しないような予防に加え、発生しても被害を最小限にする工夫と準備が必要。そのためには感染予防策と普段からの準備が欠かせない。
・ということで...
○質疑応答
・最初で手探り状況の中で非常に印象深かった。最初の施設では入院できなかったのは入院体制が整っていなかったから?...やたらとこの当時は入院期間が長かった。
・認知症の方は防げない?...歩き回る認知症の方は、ということ。だから寝たきりの認知症の方に日常の介護の中でできることをいつもきちんと対策することが大事。
・グループホームのとき入院したら一週間で退院の方針は素晴らしいと思ったが?...やはり介護が大変な人は病院でも大変という印象だったので早めの退院方針とした。
●レーベンはとがひら 施設長 生田雄さんからの報告
・当施設では、新型コロナウイルス第2波期の8月にクラスターが発生。当時クラスター対応を示す情報がほとんどなく、地域や行政機関と連携がとれないまま混乱に陥り、施設は孤立していき極限状態で泣き出す職員もいた。
・8/3職員1名の陽性が判明したことがきっかけ。8/4以降全入居者と全職員、一部デイ利用者にPCR検査を実施、最終的に入所者15名、職員15名、デイ利用者1名、合計31名の陽性が判明した。陽性者は全員が入院、陰性の入所者のほとんども濃厚接触者として14日間の健康観察となった。
・検査終了後の職員状況...2階は全滅、応援要請なしには立ちいかない状況となった。
・発生1日目〜3日目が一番大変だった。報道も施設からの入所者家族への説明前になされてしまった結果、電話が殺到、深夜に連絡後、翌日の勤務調整を行いつつだった。しかし地域や業者からの苦情への対応が一番疲弊した。
・また事実とは異なる報道や、行政関係者によるSNSでの誹謗中傷が拡散されるといった事態が現実に起こった(今回このスライドを出すのは初)。
・対策は徹底して行なった。PPE(個人防護具)、ゾーニングのほか、施設名を隠す、宿泊先の確保、福利厚生のほか、応援メッセージは地域から切り離されていく中で唯一の励みであり掲示していつでも目に入るようにした。
・8/9(発生7日目)に厚労省新型コロナ地域派遣班DMATが常駐に。自分が泣きながら「もう施設は沈んでいく」と言った際に「あなたが見ているものは何ですか?ここにある命を守るための判断ができるのはここの職員と貴方だけだよ。」とガツンと言われ目が覚めた。結局自分の使命は施設内にある目の前の命を守ることに尽きると。私の役割は、今施設にいない職員30人以上を退職させずにスムーズに復帰させること。応援派遣職員はいつまでもいない、レーベンの職員が戻ってきて、レーベンの職員でレーベンを運営しなければ終息は永遠にこない。
・それからは毎日毎日会議と打ち合わせの連続だった。DMATには本当にお世話になった。8月なので体調不良が起こらないように水分補給等、健康管理にも気を遣った。退院調整が始まったがまだ施設内はレッドゾーン期間だったのでこれも大変だった。
・そして休んでいる職員の復帰の難しさがあった。出勤できない理由はコロナに対する差別を受けること。家族が学校に行けなくなる、近所や地域から避けられる恐れから、家族が一番に出勤に反対した。そこで8/18、施設の命運をかけた職員復帰説明会を行なった。これ次第で施設が生きるか死ぬか。この職員が戻ってくるかこないか。現状と今後を説明を私から行なった。でも戻ってこい、ではなく、後は皆さん考えてくださいと。
・その後ほとんどの職員が施設内を見学し、現場の惨状を目の当たりにし、自分だけ休んではいられないとこの後から復帰者が増えた。その後8/20(発生18日目)に健康観察期間が終了し、8/21(発生19日目)に感染が収束した。
・収束6ヶ月後...入所者の一部はADLが低下、在宅サービス利用者は減少、協力関係にある会社の一部との契約は終了、職員の一部は今も友人や地域とのつながりが薄れたまま...影響が残っている限り、施設に収束(終息)は訪れないと思っている。
・最後に...新型コロナウイルス感染状況となると不安になるのが当然だが、不安の声や非難の声をあげる前に、まず応援の声を!
○質疑応答
・滋賀の場合は感染した人は全員入院ということでよかった?...はい、そうです。
・近江和順会さんは法人の規模が一定ありましたのでかなりの体制がとれたのかなと思うが、今後考えなければならないのは、一施設一法人の場合の応援体制はどうするのかというところかと思う。また地域との関係性をどのように作っていくのかは、どう経営者としてフォローしていくのかは悩みどころかと思うが?...クラスターで退職したのは結局3名、あとは団結している。ただDMATにも言われたが、職員のフォローは大事だと実感している。収束後に潰れてしまう職員がいる。また職員には3パターンある。陽性者、濃厚接触者、陽性とならずに激務をこなした職員。それぞれに交わらないところがある。感染者には感染者にしか分からない感情がある、残って激務をこなした職員には俺たちにしか分からない感情がある、と。その中で職員のメンタルフォローが単独ではできない、どこか外部の相談支援機関があればなと思う。
●ノンフィクションライター 中澤まゆみさん
・三方よしとの出会いは大熊由紀子さん。メーリングリストで。当時『おひとりさまでも最期まで在宅』を執筆したところ。小串先生に本を送ったら「講演してよ」と頼まれてから。先生の「都会に田舎を作ったらどう?」との言葉が目から鱗で、ケアコミュニティ「せたカフェ」を立ち上げた。
・せたカフェでは住民を含めた多職種で世田谷をつないでいる。地域活動、介護サービス、番外講座、認知症カフェ、介護実践講座、広域活動、在宅医療、子ども食堂、介護者家族支援、まちづくり防災、もちよりカフェ等々。
・今は活動を休止している。世田谷区の感染状況は、累計が東京都でもっとも多い。一方でコロナ受け入れ病院が少ない状況。2月に入ってからは概ね10〜30人台。ただ入院できない自宅待機者が依然として多い。
・世田谷区で起こっていることとして、メッセンジャーグループでの情報交換を行なっている。介護看護従事者、医師、区会議員までが参加してくれるようになり、入院状況やケアマネジャーからの在宅状況報告など活発に意見交換している。
・世田谷区のPCR検査実施の取り組みとして聞きたい方もあるだろう。症状のある方や濃厚接触者への従来型検査に加え、社会的検査を行なってきた。また新たにプール方式と呼ばれるスクリーニング検査も1/13から行なっている。これはNHKでのクローズアップ現代でも取り上げられたのでご存知の方も多いと思う。当初は先行受検した事業所から(無症状だが)陽性者が多数出る事態となり、保留する事業所が増えたが、12月からは感染拡大に伴い希望が急増した。
・保健所長が司令塔となっている墨田区を取材した。
・世田谷区でも「介護サービスにおける新型コロナウイルス対策に関する要望書」を作成、5/12に区長と高齢福祉部長に提出した。5月下旬には厚労省にも提出した。
・第1波の問題点として、行き当たりばったりの政府の対策他介護が揺らいだ。ただ再認識したのは、公的医療保険と介護保険制度があったことの大きな意味だった。
○質問・意見交換
・(滋賀県草津保健所 黒橋さんより)南部地区ではレーベンさんと同時期に病院でのクラスターも経験し、そのため南部介護サービス事業者協議会と共に支援体制の構築を図った。大きくは1.そこに応援に行くこと(人の連携)、2.代替サービス(サービスの連携)を2本の柱とした。
●「ニューノーマル」新生活様式での変化 花戸貴司先生
・感染対策のポイントは、ピークは発症前にあり、発症後は低下するということ。また主要な感染経路は「飛沫」と「接触」ということ。
・感染者の療養先としては、入院、宿泊療養、施設療養、自宅療養がある。
・「感染対策」がもたらしたものとしては、過度にコロナを警戒し警視庁捜査員が防護服姿で店を捜索したり、報道機関が関係者がみたら一目瞭然であるだろう感染者個人情報を流してしまうといったことが見受けられた。
・感染症(感染対策)がもたらしたものとしては、マスコミやSNSによる保健所ごっこ、感染症は罪とする人々の意識、過剰な感染対策、孤立孤独と「正しさ」への圧力、がある。ここには当事者の声が欠如している。その意味で今回については当事者の声を伝えることに意義があった。
○意見交換