三方よしカレンダー

2025年4月17日木曜日

第208回 NPO三方よし研究会のご報告

 第208回 NPO三方よし研究会を開会しましたので、ご報告いたします。

◇日時:令和7年4月17日(木)18:30~20:30 
◇会場:近江温泉病院(オンライン開催)
(当番:近江温泉病院)

ゴール
○ボツリヌス療法および持続性バクロフェン療法(ITB療法)について学習する
○筋のこわばりが高く困ったこと、その時の対応を共有しボツリヌス療法および持続性バクロフェン療法(ITB療法)が選択肢の一つになることを知る。
○民間救急についての情報を共有する


【活動報告】パーキンソン病の方に対する短期集中リハビリテーション外来の紹介
発表者:前川遼太(近江温泉病院 理学療法士)



皆様、本日はパーキンソン病の方を対象とした当院の短期集中リハビリテーション外来についてご報告させていただきます。
札幌市研究会での学びを活かし、東近江市にお住まいの約300名のパーキンソン病患者様に対し、早期からの運動や体操指導の重要性を認識し、当院では保健所主催の「のびのび友の会」にて、座学と体操指導を実施してまいりました。
リハビリに関してお困りのことがあれば、お気軽にご相談くださいと広報活動を行った結果、2023年度は34名中2名、2024年度は24名中1名の方が当院の外来を希望されました。

外来開始までの流れとしましては、まず主治医の先生にご相談いただき、当院でのリハビリ実施許可を得ていただきます。その後、ご本人または保健所から当院外来にご相談いただき、紹介状をご持参いただいた上で、外来リハビリテーションが開始となります。
回数や頻度についてはご相談に応じますが、おおむね週3回、1回40分から60分のリハビリを1週間単位で実施し、明確な目標を設定します。1ヶ月後に効果を評価し、その後は徐々に回数や頻度を減らし、3ヶ月を目安に終了、またはモニタリングへと移行します。
当外来では、日常生活における目標達成と運動能力の獲得、そしてパーキンソン病の進行予防を主な目的としています。

症例紹介
5年前にパーキンソン病と診断された70代女性の事例をご紹介します。日常生活は自立されていましたが、急な方向転換の困難さ、足のつり、そして腰痛によるコルセットと鎮痛薬の服用が課題でした。趣味の畑仕事や山菜採りを、ご友人との旅行時にコルセットなしで楽しみたいという強い希望をお持ちでした。
当外来では、開始時週3回、1回60分のリハビリを実施しました。開始3週間で、目標としていた台所での転換時のすくみ足の消失、コルセットと鎮痛薬なしでのご友人との畑仕事や山菜採りの実現を目指しました。
リハビリ開始から3週間後には、方向転換時の不安定さがなくなり、歩行時の姿勢も改善し、背筋が伸びるようになりました。腰痛も軽減し、コルセットや鎮痛薬を使用せずに過ごせるようになりました。2ヶ月後には、念願の山菜採りやご友人との旅行も楽しまれるようになり、後日、採取されたわらびの写真が届きました。

このように、パーキンソン病の方々が日常生活で抱える困りごとや、どのような運動をすれば良いかといった悩みに対し、当院では丁寧な相談と集中的なリハビリテーションを提供しています。お困りの方やご興味のある方は、どうぞお気軽にご連絡ください。
以上で、活動報告を終わらせていただきます。ありがとうございました。

【30分学習会】
ボツリヌス療法および持続性バクロフェン療法(ITB療法)の臨床的意義と効果について
発表者:嶋 綾子 先生  (医療法人社団 昴会 湖東記念病院)


本日は、脳卒中後の痙縮に対するボツリヌス療法と持続性バクロフェン療法(ITB療法)の臨床的意義と効果についてご説明させていただきます。

痙縮のメカニズム
運動制御には、興奮系と抑制系の2つの神経経路が重要です。例えば、柔らかいシフォンケーキを握る際、単に握るという興奮系の信号だけでは潰してしまいます。抑制系が同時に働き、適切な力加減で握り、口まで運ぶことができるのです。

脳卒中などにより運動神経が損傷すると、まず随意運動が麻痺します。その後、誤った神経修復過程で、脳からの正しい指令とは異なる「縮め」という誤った信号が過剰に筋肉に伝わるようになります。これが痙縮のメカニズムです。麻痺のある患者さんの2~4割に痙縮が起こると言われています。

痙縮に対する治療法
最新のガイドラインでは、痙縮に対する治療法として、ボツリヌス療法、神経ブロック、電気刺激療法、バクロフェン内服、ITB療法などが挙げられています。

ボツリヌス療法
ボツリヌス菌が産生する毒素を利用し、筋肉に注射することで神経伝達物質の放出を抑制し、筋肉の過剰な収縮を和らげます。効果は通常3ヶ月程度です。

ITB療法(持続性バクロフェン療法)
脊髄腔内にチューブを挿入し、お腹に埋め込んだポンプから持続的に抗痙縮薬(バクロフェン)を投与する方法です。内服薬と比較して、少ない量で効果が得られ、眠気などの副作用も軽減できます。ポンプの電池は約10年持ちますが、定期的な薬剤の補充が必要です。

臨床的意義と効果
ボツリヌス療法とITB療法は、以下のような臨床的意義と効果が期待できます。

関節可動域の改善: 筋肉の緊張が和らぐことで、関節が動きやすくなります。
関節拘縮の予防: 痙縮を放置すると関節が固まってしまう拘縮を予防します。
筋緊張の軽減: 過剰な筋肉の緊張を和らげ、姿勢の安定や改善につながります。
疼痛の軽減: 痙縮による痛みを軽減し、患者様のQOL(生活の質)向上に貢献します。
介助負担の軽減: 身体が動かしやすくなることで、介助者の負担を軽減できます。

治療の注意点
筋肉の突っ張りを利用して日常生活を送っている場合、筋緊張が和らぐことで一時的に不便を感じることがあります。また、ボツリヌス療法の効果は一時的であり、繰り返し注射が必要です。ITB療法は手術が必要であり、感染などのリスクも伴います。

療法士との連携
治療の効果を最大限に引き出すためには、理学療法士との連携が不可欠です。治療効果が出ている時期に、正しい姿勢でのリハビリや可動域訓練を行うことで、より効果的な改善が期待できます。また、筋肉の状態の変化や異常に気づいた際には、医師に情報共有をお願いいたします。

痙縮は治療可能な症状であることを患者様やご家族に早期に伝え、適切な治療につなげていくことが重要です。

ご不明な点がございましたら、お気軽にご相談ください。ありがとうございました。

【情報提供】
民間救急について
発表者:横田 和之様 (株式会社 かすたねっと)


この度は、民間救急についてお話させていただく機会をいただき、誠にありがとうございます。
私は11年前まで地域の消防本部に勤務しておりましたが、退職後、滋賀県で民間救急事業を開業いたしました。消防在職中に民間救急の存在を知り、全国46都道府県にある中で滋賀県には一つもないという現状を知りました。さらに調査を進める中で、民間救急車でありながら医療的な搬送が十分に行われていない実態を知り、「滋賀県でこそ、専門的な搬送サービスが必要だ」という強い思いから起業に至りました。

民間救急車は、正式には「患者等搬送事業」として、国土交通省近畿運輸局の認可を受けた一般乗用旅客自動車運送事業の一種です。消防機関で一定の講習を受けた事業者が、患者搬送事業者、通称「民間救急車」として運営されています。しかしながら、タクシー事業者と同一視されることも少なくありません。
そのような現状に対し、弊社では看護師と救命士が必ずペアで乗務するという体制を整えております。このような体制の民間救急事業者は、全国的にも数少ないと認識しております。現在、滋賀県内に彦根営業所、長浜営業所、栗東営業所の3拠点を構え、企画搬送車5台、車椅子対応車2台、長距離搬送車1台の計8台で、滋賀県と昨年開業した京都府を中心に活動しております。事務所には、アルバイト職員を含め25名の看護師が在籍しております。

弊社の民間救急車の車内は、消防救急車と同等の設備、あるいはそれ以上の資機材を備えています。例えば、輸液ポンプやシリンジポンプなども搭載しており、高度な医療処置に対応可能です。また、搬送用資機材も7種類を常備し、活動障害や発達障害のある方、高層階にお住まいの方など、様々な状況の患者様の搬送に対応できます。過去には、大津市の17階建てマンションから、呼吸器を装着された患者様を特殊な器具を用いて安全に搬送した実績もございます。
主な業務としては、滋賀県内全域はもちろんのこと、県外への転院や、県外から滋賀県への搬送など、年間を通して全国各地に対応しております。本年においても、関東や九州への搬送実績があります。陸路だけでなく、航空機や公共交通機関、新幹線を利用した搬送も可能です。
医療機関への通院や入退院の送迎に加え、この度、守山市社会福祉協議会様からのご依頼で、外出支援サービスも開始いたしました。外出や外泊の付き添い、外出・外泊中の定期的な訪問、関係機関や医療機関への情報提供など、連携を取りながら患者様の外出をサポートしております。

その他、イベント救護も行っており、過去にはG20サミットの要人救護、世界ラリー選手権の救護活動にも従事いたしました。来月には京都府内で開催される国際的なイベントの救護も予定されております。これらの活動については、県内3病院の救急車にも情報共有を行っております。

県や市からの委託業務としては、新型コロナウイルス感染症発生当初、横浜のクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号からの依頼を受け、約3,000名の方の搬送を行いました。現在、滋賀県内3拠点で活動しており、来年度を目途に福井県にも拠点を立ち上げたいと考えております。
以上、簡単ではございますが、民間救急サービスについてご説明させていただきました。ご清聴ありがとうございました。


【症例報告】
右被殻出血を呈し急性期から回復期、生活期という経過の中で持続性バクロフェン療法(ITB療法)の実施とリハビリテーションを併用することで良肢位の保持時間が延長し、家族との交流、社会的役割の再構築が可能となった症例
*息子さんからお父さんへのお手紙
発表者:理学療法士 中川めぐみ  作業療法士 冨田啓介 言語聴覚士 久貝千里(近江温泉病院)

※個人情報のため、掲載を省略

【グループワーク】
・筋のこわばりが高く困ったこと、その時の対応をどうしてきたか、どうしたらよいか検討(筋のこわばりが強く痛みが生じていた。お風呂などの介助が大変であった。痛み止めの薬を定期的に飲んでいた。リハビリを探していた。など)

【発表】
1G:


グループ1です。意識レベルの変動が多かった症例について検討しました。具体的には、強いこだわりによる行為の制限や清潔保持の困難さ、生活介助における課題、そして疼痛の出現が多く見られました。
これらの問題に対して、ストレッチングやマッサージ、ポジショニング、介助指導を実施しました。また、ご本人が可能な範囲で自主訓練を行い、現状維持を図りました。
今後の課題としては、今回の学びを踏まえ、バクロフェン療法やITB療法といった治療法をより早期に提案できるかどうかを検討すること。また、既にこれらの治療を受けている方に対して、医師との間で情報共有(評価や効果)を密に行うことが挙げられました。さらに、これらの提案をより身近に行えるよう、提案の手順(誰に情報を伝えるべきか:ケアマネージャー、医師など)を明確にすることも重要であるという結論に至りました。以上です。

2G:


グループ2は、鍼灸師と民間救急の方計9名で構成されました。痙縮と拘縮の違いについて理解が深まったという意見がありました。鍼灸師の先生からは、刺さない鍼治療や、微弱電流を流すことで症状が軽減する治療法があるという情報提供がありました。民間救急の方からは、病気の既往歴は把握しているものの、痙縮や拘縮に関する情報がないため、安全に配慮した移動を心がけているという共有がありました。また、数年前に三方よし研究会でボツリヌス療法がテーマとして取り上げられたことがあったものの、病院の負担などを考慮すると、全ての患者に提供するのは難しいという意見が出ました。
まとめとして、一人でも多くの患者が円滑な生活を送れるように、今日の発表のような良い症例が増えることを期待するという意見がありました。


3G:

三グループの発表です。ケアマネージャーからは、退院カンファレンス直前だけでなく、入院中からの情報共有の重要性、若年患者の生活支援の難しさ、入院中からの長期的な関わりの必要性、チームケアの重要性が指摘されました。
病院スタッフからは、拘縮の強い患者の介護負担軽減のため、治療効果への期待が述べられました。東近江総合医療センターからは、パーキンソン病のオンオフ症状によるリハビリの難しさ、リラクゼーション運動療法中心のリハビリ、以前勤務病院での痙縮治療の効果例、ロボット装着リハビリの経験、診療報酬による治療普及への期待が示されました。

花田先生からは、薬物療法だけでなく、急性期から維持期、専門職だけでなく生活の中でのリハビリ視点の重要性が強調されました。
近江温泉の石黒先生からは、若年発症の患者に対し、急性期からの早期介入の重要性、家族関係、リハビリでの拘縮懸念から医療介入の必要性を感じたこと、多職種連携の重要性、先を見据えた治療の必要性が述べられました。現在の目標達成後も、療養病棟で治療継続し、今後の目標を模索していく方針が示されました。
最後に、民間救急の利便性とともに、費用が高いという意見が出ました。救急車の費用についても言及があり、費用対効果について考慮する必要性が示唆されました。




4G

四グループです。近江温泉病院の前川です。グループでは、筋緊張が高くて困っている状況について話し合った結果、ほぼ全員が常日頃から困っているという認識で一致しました。過去には、重度の筋緊張により褥瘡が生じ、最悪の場合には切断に至るケースもあったと聞いています。
今回の症例を通して、自分の意図しないところで強い筋緊張が起こることは、患者さんにとって非常に辛い経験だろうということを共有しました。
極端な意見として、脳卒中や早期に筋緊張が高まると予想される疾患の場合、全員に早期からITB療法を施行することで、異常な筋緊張のみを抑制できるのではないかという意見も出ました。早期からのITB療法が良い結果を示す例も一部あるようですが、やはり費用面が課題となるという点で意見が一致しました。
今回のケースを踏まえ、筋緊張の高い症例については、相談という形で嶋先生にご相談させていただくという結論に至りました。

指定コメント
嶋 綾子先生、(医療法人社団 昴会 湖東記念病院)

4チームの皆様が、急性期、回復期、生活期といった様々な段階において、患者さんの病状、ご家族の状況、そして痙縮のような後から出てくる問題について共有することの重要性を強調されていたのが非常に印象的でした。
脳卒中という病名にとらわれがちですが、痙縮もまた治療の対象であるという認識が広まることの重要性を感じておりましたので、皆様がその点に言及してくださったことは、大変嬉しく、ありがたく思いました。
東近江、ひいては滋賀県東部において、切れ目なく様々な段階で助け合えるチーム医療の仲間でありたいと考えております。以上です。

横田 和之様(株式会社 かすたねっと)


民間救急について、費用面のご意見をいただきました。運賃は認可制で、介護タクシーとは料金体系が異なり、弊社の場合は出庫から帰庫まで一律料金です。そのため、金額が高いと感じられるかもしれません。
消防の救急車は、1件あたり約4万5千円の費用がかかると言われています。全国的に、入院不要な患者からの費用徴収の動きもあるため、民間救急への公的補助も検討されるべきだと考えています。現在、前原市や長浜市では、重度障害者・児の移送費補助が進んでいます。
関係者の皆様のご理解が進むことを願っております。今後ともよろしくお願いいたします。

花戸先生:
介護タクシーでは対応が難しい、重度な方の搬送こそ民間救急の役割だと考えています。在宅でがん末期の方がポンプを装着しながら自宅に戻られる際にも、お願いしたことがあります。このように必要不可欠なサービスですが、公的な援助が十分でない現状をご理解いただければ幸いです。今回の外出支援が実現できたのも、様々な関係者の皆様のサポートのおかげです。ありがとうございました。

三方よし研究会メーリングリストについて


花戸先生:三方よし研究会では、月1回のオンライン研究会で顔の見える関係を築くとともに、メーリングリストを活用して日々の情報交換や症例報告を行っています。まだメーリングリストに参加されていない方は、三方よし研究会ブログのトップページからお申込みください。


【連絡事項】 ・第209回 NPO三方よし研究会 令和7年5月15日(木)18:30~20:30

上田さん:令和7年5月15日に、昴会主催、能登川病院会場にて三方よし研究会を開催します。今回は久しぶりに、現地参加とオンライン参加を併用したハイブリッド形式で実施します。会場は能登川病院隣の「なごみ」2階です。病院にお越しいただければご案内しますので、お時間のある方はぜひお越しください。
内容ですが、今回は医療安全をテーマに、当院の医療安全認定看護師が中心となり発表します。特に、在宅など様々な現場で話題となる身体拘束について、勉強会や判例紹介を行い、最終的にはグループワークを通じて、在宅医療や医療機関など様々な立場から学びを深めたいと思います。以上です。