このたび、三方よし研究会 市民公開講座を開催しましたので、概要をご報告いたします。
日時 :令和7年12月13日(土)14時~16時30分
場所:東近江市五個荘コミュニティセンター
〇挨拶:三方よし研究会 理事長 小串輝男医師
本日はお忙しい中、三方よし研究会 市民公開講座にご参加いただき、ありがとうございます。
本日の講座は「認知症」をテーマに開催しました。五箇荘地区では先日、この会場で認知症の早期発見訓練が行われましたが、私たちの取り組みは、単に認知症を見つけることを目的としたものではありません。認知症のある方お一人おひとりに寄り添い、その人の状況や思いを理解しようとすることを切にしています。
認知症は、誰にとっても身近で、決して他人事ではありません。地域の中でどう受け止め、ともに生きていくかを考えることが重要だと考えています。
本日は、写真記者として長年認知症の現場を見つめてこられた 松村和彦先生 をお迎えし、「心の糸」をテーマにご講演いただきます。認知症を新たな視点で捉え直す機会になることを期待しています。
本日はどうぞ最後まで、ゆっくりとお話をお聴きください。
司会:小原日出美 氏
本日の市民公開講座は、新聞記者として長年、認知症をテーマに取材・発信を続けてこられた講師をお招きし、認知症について「知る」だけでなく、「感じ、考える」機会として開催いたしました。
認知症は、誰にとっても決して他人事ではありません。本日のお話が、皆さま一人ひとりの心に残る時間となりましたら幸いです。
それではまず、オープニングとして、永源寺診療所 所長であり、三方よし研究会 実行委員長でもいらっしゃいます 花戸貴司先生 に、「認知症とともに生きる」をテーマにお話しいただきます。
花戸先生、どうぞよろしくお願いいたします。
〇オープニングアクト:花戸貴司先生(永源寺診療所所長、三方よし研究会実行委員長)

オープニングアウトでは、花戸貴司先生より、「認知症とともに生きる」をテーマにお話しいただきました。
花戸先生はまず、日本社会が大きく変化してきた背景に触れられました。かつて日本人の平均寿命が50歳前後だった時代には、医療の役割は「病院で治すこと」が中心でした。しかし現在は平均寿命が80歳を超え、多くの人が高血圧や糖尿病、がん、認知症など複数の病気を抱えながら地域で暮らす時代になっています。
その中で、「医学や医療だけでは健康や暮らしを支えきれない時代に入っている」と指摘されました。
訪問診療の現場での具体的なエピソードとして、認知症のある一人暮らしの方の生活を紹介され、環境を変えないことの重要性を強調されました。入院や施設入所による急激な環境変化が、混乱や症状の進行につながることがあり、できる限り住み慣れた地域・住み慣れた家で暮らし続けられるよう支えることが大切だと語られました。
また、認知症のある方を支えるうえで、「一人で抱え込まないこと」が何より重要であると述べられました。医療や介護サービスだけでなく、自治会、民生委員、近所の人など、地域のつながりそのものが支援の力になること、そして孤立や孤独が認知症の進行や生活の困難さにつながる現実にも触れられました。
認知症予防の観点からも、難聴への対応、運動、社会参加、役割を持つことの重要性が示され、「人と人とのつながりが、結果として認知症の予防にも、進行を緩やかにすることにもつながる」というメッセージが、参加者に届けられています。
〇講演
「心の糸 ~写真記者の僕が認知症を見つめ続けて気づいた光~」
松村 和彦 氏(京都新聞社 写真記者)
続いて登壇されたのは、京都新聞社の写真記者として、長年にわたり認知症や社会保障、ケアの現場を取材してこられた松村和彦氏です。
松村氏は、新聞記事や写真展で出会ってきた多くの認知症のある方や家族の姿を振り返りながら、記者として感じ続けてきた葛藤や気づきを語られました。
取材当初は「認知症」という言葉に、社会全体が抱く不安や恐れをそのまま写し取ろうとしていた自分がいたと振り返りつつ、取材を重ねる中で、それだけでは伝えきれないものがあると感じるようになったと言います。
写真に写るのは、できなくなったことだけではなく、その人が誰かと笑い合う瞬間、何かを大切に思う気持ち、日常の中で紡がれる関係性です。
松村氏は、それらを「心の糸」と表現し、認知症になっても人と人との間には確かにつながりが残り、むしろそれが浮かび上がってくる瞬間があると語られました。
また、記者として「伝える側」でありながら、認知症のある方や家族の姿に、自身の生き方や価値観を何度も問い直されてきたこと、取材を通して教えられてきたのは「弱さの中にある強さ」や「支え合うことの自然さ」だったと語られました。
認知症は決して特別な人の問題ではなく、誰もが当事者になりうる時代です。
だからこそ、恐れや距離を置くのではなく、一人ひとりの人生として見つめ、関わり続けることの大切さを、写真と言葉を通して参加者に伝えられました。
〇質疑応答
講演後には、参加者との質疑応答の時間が設けられました。
会場からは、
「認知症のある家族と、どのような距離感で関わればよいのか」
「地域として、何ができるのか分からず戸惑うことがある」
といった率直な質問が寄せられました。
これに対し花戸先生は、「完璧に支えようとしないこと」「一人で背負わず、周囲とつながり続けること」の大切さを強調されました。医療や介護の専門職に任せる部分と、家族や地域が担う役割を分けて考えることで、支える側も無理なく関わり続けられると話されました。
松村氏からは、「何か特別なことをしなくても、挨拶や声かけ、関心を持ち続けること自体が大きな支えになる」との言葉があり、参加者一人ひとりが地域の中で果たせる役割について、改めて考える機会となったのではと思います。
〇閉会の挨拶:三方よし研究会 副理事長 大石和美薬剤師
皆さま、本日は三方よし研究会 市民公開講座にお越しいただき、ありがとうございました。閉会にあたり、一言ご挨拶を申し上げます。
本日は、講師として 松村和彦先生 をお迎えし、「知ることが薬になる ― 写真記者の僕が認知症を見つめ続けて気づいた光 ―」と題した、示唆に富むお話をお聞かせいただきました。また、オープニングでは 花戸貴司医師 から、在宅医療の現場での貴重なご経験をもとにしたお話をいただき、会場の皆さまも深くうなずきながら耳を傾けておられました。
「知ること」の大切さは、私ども三方よし研究会が目指す「地域よし」に通じるものだと、改めて感じています。
これからも地域の皆さまとともに学び、対話し、気づきを共有する場づくりを続けてまいります。今後とも三方よし研究会の活動を温かく見守っていただけましたら幸いです。
本日は誠にありがとうございました。
〇受付では図書や赤飯の販売
〇三方よし実行委員のメンバー