三方よしカレンダー

2026年3月22日日曜日

第221回三方よし研究会のご報告

 第221回三方よし研究会が開催されましたので、ここに報告します。

1. 開催概要


第221回三方よし研究会は、びわこリハビリテーション専門職大学さんの当番で、小串輝男氏の全体進行のもと、在宅リハビリテーションの課題と展望について深い議論が交わされました。

2. 情報提供:地域共生ケア全国ネットワーク研究フォーラム


会議の冒頭、楠神より「地域共生ケア全国ネットワーク研究フォーラム」の開催案内が行われました。このフォーラムは2026年度、広島県福山市の鞆の浦において「地域住民と共に歩む共生社会」をテーマに開催が予定されており、少子高齢化社会における相互扶助の在り方を模索する貴重な機会となります。開催日は4月18日で、現地参加のほかオンライン視聴も可能であり、それぞれの地域で実践可能な共生ケアについて知見を広めることが目的とされています。また、前日の4月17日にはオプション企画として鞆の浦の魅力を体感できる「街歩き」も計画されており、こちらもオンラインでの疑似体験が可能である旨が紹介され、積極的な参加が呼びかけられました。

3. 開会挨拶:三方よし研究会の歩みと現状
びわこリハビリテーション専門職大学 学長 角野文彦氏


挨拶では、本研究会の成り立ちから現在に至る軌跡が語られました。当初、保健所において地域の関係者が脳卒中パスを作成することから始まった活動は、現在は小串輝男氏や花戸大介氏らの尽力により、NPO法人として確固たる社会実装の形態を成し、全国からも注目される存在へと発展を遂げました。角野文彦氏は、行政から教育の世界に身を転じて2年が経過し、同時に在宅医療介護連携推進事業の座長を2年前から務めているという自身の背景を共有され、その中で永源寺の花戸大介氏による事例報告が全国的な好事例として高く評価されていることに触れました。滋賀県唯一のセラピスト養成校としての役割を果たす一方で、少子化による学生確保の難しさという経営的課題にも言及しつつ、在宅における生活の質を維持するためにはリハビリテーション職の介在が不可欠であることを、行政と教育の両面を知る立場から強調されました。


4. 取組紹介:滋賀県および本学における言語聴覚士の地域活動
言語聴覚療法学科長 種村純氏

滋賀県内および大学における言語聴覚士(ST)の活動状況が報告されました。同学科の学生の約9割が滋賀県出身者で占められており、地域に根差した人材育成が進んでいますが、滋賀県言語聴覚士会自体の会員数は100名程度の小規模な組織に留まっています。そのため、理学療法士会や作業療法士会との多職種連携や、大学との強固な協力体制が不可欠であるという現状が示されました。具体的な活動として、リハ職派遣事業や「失語症者向け意思疎通支援者養成事業」を通じた外出支援、さらには県内各地で開かれている失語症カフェの運営支援が挙げられました。また、東近江市での「まちリハ事業」や、アルプラザ八日市での「みんなの広場」、二五八まつり等の地域イベントにおいては、教員と学生が一体となって「知の健康づくり」を推進し、認知機能の測定とトレーニング、口腔・嚥下機能評価機器「健口くん」を用いた健康増進活動を積極的に展開している実績が紹介されました。


5. 学習会:COPDは予防できる地域課題である
リハビリテーション学部長 千住秀明氏


学習会では、COPD(慢性閉塞性肺疾患)を「予防可能な地域課題」として捉える重要性が説かれました。COPDは長年の喫煙習慣が原因で発症する「タバコ病」であり、進行すると呼気が延長し、息を吐き出しにくくなるメカニズムを持っています。東近江市においては男性の死亡率が全国平均より高く、喫緊の課題となっていますが、呼吸リハビリテーションは従来の診療報酬体系において評価が遅れ、医療機関にとっては取り組むほど赤字になりやすいという社会的背景が、普及を妨げる一因となってきました。
千住秀明氏は、長崎県や東京都での検診モデルに基づき、肺年齢測定やスパイロメトリーによる早期発見の重要性を強調しました。特に「吸入療法」において、製薬会社のデバイス特許の関係で操作方法がメーカーごとに異なり、高齢の患者が混乱を来している現状を指摘し、20分という時間をかけて丁寧に指導できる理学療法士が介入する意義は大きいと述べました。80代女性の症例では、5年間の寝たきり状態から適切な呼吸法と運動療法により200メートルの歩行が可能になった姿が示されました。禁煙、薬物療法、呼吸リハを統合した**「東近江市モデル」の構築は、医療・介護・行政の連携によって救える患者を増やし、まさに「三方よし」を実現する鍵となる**と提言されました。

6. グループ発表:在宅リハビリテーションの課題と継続の方法
グループワークでは、花戸貴司氏の進行により、在宅におけるリハビリテーションをいかに継続させるかについて活発な議論が展開されました。


第1グループ


 入院中の密なリハビリと在宅での頻度の差が大きな課題であると報告。家族の意思だけでは継続が難しいため、ヘルパーなどの訪問スタッフが入れ替わり立ち替わり声掛けを行い、モチベーションを高める工夫が必要であるとの意見が出されました。また、特別な訓練としてだけでなく、掃除や調理といった具体的な生活動作そのものをリハビリとして捉え、日常の中に落とし込む考え方が有効であるとまとめられました。


第2グループ


本人と家族の間でリハビリの目標がズレていることや、老老介護の世帯にとってリハビリ計画書の理解が難しいといった課題を挙げました。また、ケアマネジャーがリハビリの「卒業」を目指しても、その後のバトンタッチが難しく機能が低下してしまう懸念についても議論されました。継続のための対策として、「競馬に行きたい」「来年の桜を見たい」といった本人の具体的な楽しみや居場所づくりに直結する目標設定を行うことが、意欲を引き出す鍵になると報告されました。


会場班


金銭面や制度上の制限から毎日専門職が訪問することは困難であるという現実的な問題を指摘しました。そのため、訪問時以外に家族がいかに適切に介助し、本人がどう動くかという具体的なイメージを共有し、環境を整える指導が不可欠であると結論付けました。さらに、在宅リハビリが必要になる前の段階での、行政や地域による継続的な啓蒙活動の重要性についても強調されました。


7. 指定発言:行政および現場の視点


指定発言では、まず東近江市保健センターの理学療法士である中嶋氏が登壇し、行政の立場から、重症化する前の段階での啓発活動の重要性を述べられました。出前講座などを通じて、市民一人ひとりが「どう生きたいか」を自問自答し、予防意識を高めるための伴走支援を継続していく姿勢が示されました。


続いて、ワンモア訪問看護リハビリセンターの理学療法士である山本氏は、診断名がついていなくとも潜在的に呼吸不全を抱える高齢者が多い現状を指摘しました。専門職による週数回の介入に留まらず、朝起きた際や食事の前後など、生活の流れの中に呼吸法や活動の工夫をいかに自然に落とし込むかという視点が、在宅におけるリハビリの質を決定づけると提言されました。


8. コメント、閉会
最後に、角野文彦氏よりコメントをいただきました。


角野文彦氏は、病院のリハビリテーション室では熱心に動く患者が、病室に戻ると終日寝たきりになっている現状を鑑みて、「生活そのものがリハビリテーションである」という視点への立ち返りを求めました。在宅生活においては、機能回復そのものを目的とするのではなく、本人の意欲を喚起する「個別の目標設定」に特化し、多職種がバトンを繋ぎながら生活を支える姿勢こそが重要であると結びました。



9.次回のご案内
次回の第222回研究会は、令和8年4月16日に近江温泉病院が当番校を務め、「お食い締め」をメインテーマに開催されます。パーキンソン病患者の看取りまでの5年間の経過報告や、地域における食支援の在り方、多職種連携による食の支援体制について検討する予定であることが案内され、盛会のうちに閉会しました。


2026年3月15日日曜日

第9回メディカルビレッジ学会・三方よし研究会市民公開講座のご報告

 第9回メディカルビレッジ学会・三方よし研究会市民公開講座が開催されました。
多くの皆さまにご参加いただき、がんと共に生きること、支え合うこと、そして地域の中で安心して暮らし続けることについて、さまざまな立場から学び合う貴重な時間となりました。


 開会にあたり、NPO法人三方よし研究会 副理事長の大石和美さんより挨拶がありました。大石さんは、「一人の人間を癒すには、一つの村が必要である」というメディカルビレッジの考え方に触れながら、患者さんだけでなく、ご家族やご友人、医療や介護に関わる人たちも含めて共に暮らしを支え合う“癒しの村”を地域の中につくっていくことの大切さを紹介されました。また、人生の途中で立ち止まるような出来事に出会ったとき、人の言葉がその後の人生を支える道しるべになることにも触れ、この日の講演が参加者一人ひとりにとって「言葉の処方箋」となることへの願いが語られました。


 


 司会は三方よし研究会実行委員の小原日出美さんが務められ、基調講演、情報提供、特別講演Ⅰ・Ⅱへと続くプログラムが案内されました。 

基調講演では、順天堂大学名誉教授の野興夫先生が「人生の目を開く ことばの処方箋」をテーマにお話しくださいました。日野先生は、ご自身の故郷での原体験や、がん哲学外来の実践を通して、「病気であっても病人ではない」という視点を大切にしながら、病気そのものだけでなく、その人の人生や思いに寄り添うことの大切さを語られました。また、「支える」と「寄り添う」は少し違うこと、困っている人と一緒に困ってくれる人の存在が、その人の悩みをやわらげること、さらに、希望を持って生きる人を誰が病人と呼ぶのか、という印象深いメッセージも届けてくださいました。がん哲学とは、生物学としての“がん”と、人間学としての“哲学”を重ね合わせ、人が病と共にどう生きるかを考える営みであることも、わかりやすくお話しくださいました。


 続いて、東近江市永源寺診療所所長の花戸貴司先生より、「がん患者の現状」について情報提供がありました。花戸先生は、ご自身のお父さまをがんで亡くされた経験にも触れながら、今は医療の進歩によってがんと共に長く生きる時代になった一方で、その分、患者さんやご家族が悩み続ける時間も長くなっていることを丁寧に語られました。診断、治療、慢性期、再発、終末期という“がんの旅路”の中で、患者さんは何度も意思決定を迫られ、不安、孤独、迷い、ざわざわした気持ちを抱えながら過ごしていること、そして病院では答えきれない悩みが数多くあることを紹介されました。そのうえで、医療だけでは解決できない苦しみがあり、専門職だけでなく、友人や仲間、地域の人たちが話を聴くこと、地域全体が支え合うチームになることが大切であると伝えてくださいました。さらに、科学や技術だけでなく、「おいしい」「うれしい」「楽しい」といった本人の内側にある価値を大事にする“アート”の視点も必要だとお話しくださり、とても心に残る発表となりました。 


特別講演Ⅰでは、滋賀県がん患者団体連絡協議会会長の菊井津多子さんが、「一緒に考えよう ~がん患者に安心をもたらしてくれる ヒト・モノ・コト~」をテーマに、ご自身の体験と患者支援活動をもとにお話しくださいました。菊井さんは、37歳で乳がんと診断され、手術、抗がん剤、ホルモン治療、放射線治療を受けられたこと、さらに再発を経験されたことを率直に語られました。その中で、子どもたちの成長を見たいという思いが生きる力になったこと、患者会との出会いが大きな支えになったこと、同じ体験を持つ仲間と出会えたことで「ほっとした」ことなどを話してくださいました。さらに、滋賀県がん患者団体連絡協議会の活動として、ピアサポーター養成、患者サロンの運営、がん患者アンケートの実施などを紹介され、患者さんやご家族が求めているのは、医療者との信頼関係、必要な情報にたどり着けること、思いを分かち合える居場所、そして安心して相談できるつながりであることを伝えてくださいました。講演の最後には、がん患者に安心をもたらす“ヒト・モノ・コト”が、それぞれバラバラではなく、つながっていることが何より大切であり、そうしたメディカルビレッジの考え方が東近江から滋賀県全体、さらに全国へと広がっていってほしいという願いが語られました。


特別講演Ⅱでは、写真家の國森康弘さんが、「写真が語る命のバトンリレー ~悲しくも温かな死の先に~」をテーマにご講演くださいました。國森さんは、写真家としてご縁のあった方々の人生や家族の時間、看取りの現場を写真とともに紹介されました。がんに限らず、さまざまな境遇にある人々の姿を通して、命が誰かから誰かへと受け継がれていくこと、支え合う人たちの存在が暮らしを支えていることを伝えてくださいました。たとえば、在宅での暮らしを支えるために、看護師、薬剤師、ヘルパー、ケアマネジャー、リハビリ職、福祉用具の専門職、家族らが集まり、一人の暮らしと家族の暮らしをどう支えるかを一緒に考えた場面も紹介され、多職種や家族がつながることの力強さを感じさせてくださいました。講演の終盤では、おばあちゃんとの思い出や「ありがとうおばあちゃん」という言葉とともに、先人たちがつないできた命のバトンリレーへの感謝が語られ、会場全体があたたかな余韻に包まれました。  


閉会にあたり、三方よし研究会 副理事長の楠神渉さんより挨拶がありました。楠神さんは、先生のお話から「病気であっても病人ではない」という大切な視点を受け取り、病気を抱えながらもその人らしく地域で生きていけるあり方こそ、メディカルビレッジの目指す地域の姿ではないかと述べられました。また、花戸先生からはがん患者さんの意思決定の連続や在宅医療の視点、菊井さんからはがん患者さんの思いや支援のあり方、緩和ケアの課題、そして國森さんからは写真を通して見える命のつながりや看取りのあたたかさを学ばせていただいたことに触れながら、登壇者への感謝を伝えられました。最後に、参加者に向けても深い感謝が述べられ、市民公開講座はあたたかな拍手の中で締めくくられました。


 全体を通して、がんという病気を医学的に知るだけでなく、その人らしく生きること、支えられること、支え合うこと、そして地域の中に安心できる居場所やつながりを育んでいくことの大切さを、あらためて考える時間となりました。今回の学びを、東近江の地域づくりにも生かしていきたいと感じています。